第675話 マムシの一族系ヒロイン


 なんだか著しく名誉が毀損されている気がする。「どうせマムシの一族なんだからお前も腹黒なんだろう?」と罵られている気がする。


『事実でしょう?』


 解せぬ。

 私ほど潔白で無実で無辜なる美少女はいないというのに。


『そういうところです』


 こういうところらしい。


『そもそも生来の腹黒さに加え、数百年の人生経験が加わるのですから、マムシ一族の中でも断トツで腹黒いのでは?』


 げーせーぬー。


 プリちゃんからの酷評にそっと涙を拭う健気な私。


【健気というのは殊勝であるとか、心がけがよくしっかりしている様を表す言葉ですが】


 まるで私がダメダメ美少女みたいな物言いは止めてもらえませんかね自動翻訳ヴァーセットさんや。


「まぁ、帰蝶は実際ダメダメだしね」


 ダメダメ酔っ払い神が何か言っていた。


 ま、それはともかく。戦の結果報告はまだまだ先だろうし、ここは別件の悪巧み――じゃなくて、三ちゃんの天下布武というか世界布武をサポートするために色々とやり始めましょうか。


 というわけで堺へと転移して、かつて私の肖像画を描いてくれた絵師・狩野松栄を拉致――じゃなくて、平和裏に誘拐してきた私である。


【マスターは日本語表現に喧嘩を売る趣味でもあるのですか?】


 まるで私の日本語能力が小学生以下みたいな以下略。


「お、おぉ……これが噂に名高い帰蝶様の真法まほうでありますか……」


 初めての転移だというのにわりと平然としている松栄さんだった。


『いえ目ん玉飛び出るくらい驚いていますが?』


 目ん玉飛び出るとか久しぶりに聞いたわ。

 まぁでも明智の光秀さんのように悪酔いしたりリバースしたりする様子はない。これは光秀さんがただ酔いやすいだけ説が浮上してきたわね。


『いえ心の準備が済む前に転移させられているせいでは?』


 光秀さんを庇ってあげる心優しいプリちゃんであった。


「さて。松栄さんには那古野城の障壁画を描いてもらおうと思っているのですよ」


「そ、そうでしたか……いや、父に比べれば凡才な自分に仕事を任せてもらえるとは望外の喜び。全身全霊で事に当たらせていただきます」


 凡才ねぇ。

 たしかに狩野派発展の基礎を築いたお父さんや、息子・狩野永徳に比べると有名じゃないし地味なのだけど……個人的には穏やかで暖かみのあるタッチが好きなんだけどなぁ。


 まぁ、いいでしょう。

 史実においてあまり有名じゃなかったのなら――私が! 有名にしてあげればいいのだ! これこそが後援者パトロンの醍醐味よ! 具体的に言えば那古野城(名古屋城)の障壁画を描いてもらって、それが『現代』にまで残れば嫌でも有名になるでしょう!


『また気軽に人の人生を狂わせる……』


 良い方向に狂うのだから、別にいいじゃない。


『そういうところです』


 こういうところらしい。


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