第674話 閑話 マムシの一族
――清洲城内。
織田信友の元・筆頭家老であり、今は斎藤道三の元へと亡命していた坂井大膳は……近衛師団に同行し、清洲城内へと入った。
「報いを待てよ、坂井大膳……!」
織田信友の嫡男・織田広信はそんな恨み言を残し、自ら腹を切った。
父・織田信友が出陣したので清洲城の守りを任されていたのだが……正直言って油断していた。周囲の勢力で清洲城に攻めてくる者などいないだろうと。
それに、使える兵は信友が連れて行ってしまったので、警戒しようがしまいがどうしようもなかったという理由もある。
しかし、斎藤道三は動いていた。
信友と信長の軍が戦闘に入り、そう簡単には城に戻れなくなった時機を見計らい、明智光秀率いる近衛師団は清洲城を包囲。信友への連絡を絶ち、城を自落(戦わずして降伏)させたのだ。
光秀らが城兵を無力化させている間、勝手知ったる坂井大膳はかつての主君の嫡男、織田広信を切腹せしめた。
介錯すらせず、坂井大膳は高らかに笑う。
「はははっ! はははっ! これで尾張の守護代は儂のものよ! 自らの武運拙さを恨むがいい!」
かの斎藤道三を利用し、兵を借り、ついには清洲城を無血開城させ反逆者織田広信を切腹させた。なんと見事な手腕であろう。なんと見事な知略であろう。坂井大膳は自らを賞賛することを止めることができなかった。
「……おやおや、これはこれは」
驚いたような声を上げながら部屋に入ってきたのは斎藤道三の弟・長井道利。明智光秀の軍監(お目付役)としてついてきた男だ。
「おぉ! 道利殿! 城の制圧は順調でありましょうか!?」
「えぇ。万事滞りなく。……この男は?」
「大逆人・織田信友が嫡男、織田広信で御座います」
「おぉ、それはそれは……」
広信という男が死んでいることを確認してから、道利はわざとらしく自らの額を手のひらで押さえた。
そして――
「おお! なんということだ!」
「み、道利殿……?」
突然の大声に坂井大膳が戸惑うが、そんな彼に構うことなく道利が続ける。
「
「な、なにを……?」
理解の及ばない坂井大膳が後ずさると、逃がさぬとばかりに道利の兵が部屋に押し入り、坂井大膳を取り囲んだ。
「主君殺し、坂井大膳! 我が友・織田信友の仇じゃ! 潔く腹を切れぇい!」
無論、織田信友が長井道利の友であるはずがない。これは道利の演技に熱が入りすぎた結果であろう。
事ここに至って。ようやっと利用されていたのだと坂井大膳も理解する。
「おのれ道利! ――ぐっ!」
坂井大膳が刀に手を伸ばしたところで、道利の兵たちが坂井大膳に刀を突き刺した。
「おの、れ……マムシ、どもが……」
辞世の句すら残せず絶命する坂井大膳。
そんな彼を一瞥してから長井道利は冷たく言い放った。
「首はその辺に晒しておけ」
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