第666話 閑話 信秀、動く
守護
織田信友、謀反。
平手政秀からその報を受けた末森城(信長父・信秀居城)の面々は浮き足だった。
「ここまで阿呆だとは思わなんだ!」
「す、すぐに出陣の準備を!」
「信光殿や信清殿(信秀甥)にも使いを出し、援軍を待つべきでは?」
「いや、信光殿はとにかく、信清殿は最近反抗的であるし……」
「尾張の一大事ぞ? 過去の遺恨は忘れて駆けつけてくれるのでは?」
「待っていられるか!? 若様はもう出陣したというのだぞ!?」
「いくら若様でも、たったあれだけの馬廻衆で信友を相手取るのは……」
「げ、下克上ならば逃げ出す兵も増えよう。守護弑逆ともなれば尚更。若様はそこまで考えての出陣ではないのか?」
「あの若様がそこまで考えているか!?」
今まで『うつけ』として過ごしてきたからこその是非もない評価だった。うつけを止めたあとも、割とノリと勢いで生きているので是非に及ばずか。
「――騒がしい!」
慌てふためく家臣たちを、信秀が一喝する。
すっくと立ち上がった信秀は次々に指示を飛ばした。
「出陣じゃ! 仕度をいたせ! ぐずぐずしていては三郎にすべて持って行かれるわ! 信光や信清だけではなく、尾張中の諸勢力に知らせよ! ――我が旗の下に集いて謀反人・織田信友を討つべしと!」
「おぉ! それは名案!」
「すぐに準備をいたします!」
織田信秀が中心となり、謀反人信友を討つ。
それは、次の守護代が信秀であると高らかに宣言するものであった。
たとえ信秀に叛意をもつ者でも、これには従わなければならない。なぜなら従わなければ「守護の弔い合戦にも出陣しない不忠者」となってしまうし、「信友と協力していたに違いない」と周りの勢力から攻められる大義名分を与えてしまうからだ。
慌ただしく準備に向かう家臣たち。
そんな中、伝令役で疲労しているだろうに平手政秀がどこか嬉しそうに近づいてきた。
「尾張国中とのことですが、信広様(信長庶兄)にも伝えますか?」
「無論よ」
「では、謹慎を解くよい口実となりますな」
信広は小豆坂の戦いのあと、あまりにも情けない言動のため信秀から謹慎を言い渡されていたのだ。
本来平手政秀は信長の傅役(教育係)であり、信長が織田弾正忠家を継ぐなら信広には失脚してもらった方がいい。にもかかわらずこういうことを確認してしまうあたり、政秀の甘さというか人の良さがにじみ出ていた。
まぁ、こんな男だからこそ信秀も側に置いていたし、今では嫡男の傅役を任せているのだが。
「……余計なことを言ってないで、さっさと休め。那古野から末森まで馬を走らせるなど……自分の歳を考えろ」
「はは、有難きお言葉」
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