第660話 閑話 腹黒は感染する
――戦。
その言葉を聞いた由宇喜一は慌てるしかなかった。
「お、お待ちくだされ! まだ大和守(信友)が謀反を起こしたと決まったわけでは! まずは饗談(忍者)を放って情報収集を――」
「遅い! そんなことをしておれば信友は兵を集め終えるわ!」
そんなやり取りをしている間にも、信長の元へ続々と人が集まってきた。先ほどまで岩を曳いていたり、築城作業をしていた男たちだ。
「皆の者! 謀反じゃ! 信友めがとうとうやりおったわ!」
「おお!」
「じゃあ、やるんすね!?」
「時は今ってやつですか!」
「おう! 大逆人、織田信友の首を落とすぞ! 仕度せい!」
「合点承知!」
「さっそく鎧を持ってきまさぁ!」
「他の連中にも伝えますぜ!」
信長の言葉を疑いもせず駆けだしていく男たち。そんな様子を唖然と見送るしかなかった由宇喜一だったが、やっとのことで事態を理解する。
「さ、三郎様……。もしも間違いだった場合はどうするのです?」
信長の心配というよりは、信長に助けを求めると決めた自分の責任が問われるのではないかと恐れる由宇。
そんな彼に対して信長は小さく鼻を鳴らした。
「是非も無し」
「ぜ、ぜひもなしとは……?」
「どうせ信友はいずれ倒さねばならなかった敵よ。予定より少し早くなっただけのこと。――先日武衛様が那古野城を訪れた際、密かに信友討伐の命を受けた。
「…………」
この短時間でそこまで考えるのかと感心する由宇。なるほどこれだけ頭の回転が速ければ幼い頃より『うつけ』の演技もできるだろうし、武衛様も嫡男のことを任せるだろうと納得する。
ちなみに。
もしもプリちゃんがいれば『あの人の腹黒さが感染しましたか……』と涙を拭うだろうが、幸か不幸かこの場にプリちゃんはいない。
感心する由宇に対して信長が一礼する。
「戦支度がありますゆえ、御免。由宇殿も湯浴みでもされてはいかがだろうか」
そう言い残して信長も那古野城内の屋敷に入ってしまった。これからおそらく食事を取り、鎧兜を身に纏うなどの戦支度をするのだろう。もちろん食事内容は湯漬け。帰蝶が聞いたら瞬時に満漢全席を準備しそうだ。
「…………」
どうしたものか。
さすがに湯浴みをする余裕などない由宇は、その場でしばらく佇むしかなかった。
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