第659話 閑話 決断
「若様! 一大事っすよ!」
もう少し言い方はないのかと少し呆れながら、自分も物の言い方については他人を叱れないかと思い直した信長である。これは帰蝶が反面教師になったと言えよう。
「なんじゃ騒々しい。また帰蝶が何か
是非も無し。
だがしかし、今回は(ひっじょーに珍しく)帰蝶が原因ではない(と、思われる)(たぶん)(きっと)(おそらくは)
「斯波んとこのガキがこっちまで逃げてきました!」
この口の悪さというか奇っ怪な言葉遣いはやはり帰蝶の悪影響であろう。
「斯波のガキ……? 義銀様か?」
「そうそれ! 義銀様っす! なんかヤバいみたいっすよ!」
この奇っ怪な言葉遣い以下略。
「――犬千代! 後先考えずに走り出すな! それでは何の説明にもなっていないではないか!」
と、犬千代を叱りつけたのは森可成。同行するのは平手政秀の息子・長秀と……どことなくやつれたように見える、斯波義銀。尾張守護斯波義統の嫡男にして、未来の尾張守護になるはずの人物だ。
ここから清洲城は近いと言えば近いが、それも長距離移動に慣れた者にとってのこと。次代の尾張守護として大切に育てられてきた義銀にとっては辛い強行軍となったのだろう。
「これはこれは、若武衛様……。おい! まずは湯浴みだ! 湯浴みの準備をいたせ!」
義銀に頭を下げたあと、近くにいた家臣に命じる信長。
もはや何かを考えるのも辛いのか、大人しく湯殿に連れて行かれる義銀。そんな彼を見送ってから、信長は義銀の側にいた由宇喜一に視線を向けた。
織田弾正忠家の嫡男とはいえまだ家督を継いだわけではない信長と、義統の家臣であり義銀の家老候補である由宇喜一に直接の面識はないし、たとえあったとしても信長は忘れているだろう。
「そなたは?」
「これは申し遅れました。拙者、武衛様にお仕えしております由宇喜一と申す者。今は若武衛様の側に侍らせていただいております」
ほぅほぅと頷く信長の側で、森可成が耳打ちする。将来の義銀の家老候補で偉くなる人ですよと。
「これはご丁寧に。拙者、織田弾正忠が嫡男、織田三郎信長で御座る。……何があったか承ってもよろしいですか?」
ちょっとたどたどしく由宇に尋ねる信長だった。やはり犬千代のことは言えないらしい。……が、以前の信長から比べれば格段の進歩であったのでそっと涙を拭う森可成であった。
「はっ。まだ確証があるわけではないのですが……」
証拠があるわけではないと前置きしてから、由宇はことの事情を説明した。義銀を拉致しようとした信友家臣。まるで戦を想定しているかのような甲冑姿。そして、火の手が上がっているように見えた清洲城……。
それを聞いた信長はカッと目を見開き、森可成に指示を飛ばした。
「戦じゃ!
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