第657話 閑話 南蛮船×2
信長が築城の指示を続けていると。湊に巨大な船が入ってくるのが見えた。
すっかり見慣れた南蛮船。
それが、二隻。
南蛮船はすでに堺へ少数が来航しているとはいえ、それは国際貿易都市である堺であるからこそ。わざわざ尾張にまでやって来る南蛮船など、帰蝶のものしかあり得ない……のだが、二隻とはどういうことだろうか?
気になった信長は築城の指揮を森可成に任せ、港へと向かうのだった。
◇
「あ、にぃに」
熱田の湊に到着した信長を口数少なく出迎えてくれたのは、これまた帰蝶の家臣という扱いの雑賀孫一。帰蝶が全力で弟扱いしている少年だ。よく見れば鳥居半四郎や雑賀の三姉妹らもいる。
「おう、孫一か。久しいのぉ。帰蝶とは別行動であるか?」
「ん。やっと淀城の引き継ぎ作業が終わった。これからは根来衆とかが城を守る」
「……なんともはや」
あやつは根来衆にまで手を伸ばしていたかと呆れるしかない信長。彼もそれほど畿内情勢に詳しいわけではないが、それでも傭兵集団としての雑賀衆と根来衆の異名は尾張にまで届いていた。その二つの集団を味方に引き入れるとは……。
天下布武、帰蝶がやった方が早いのでは?
かなり本気でそう思う信長であるが、首を横に振る。加減を知らない人間の
ちなみに歴史から言えば信長も十分『加減を知らない』側の人間なのであるが、残念ながら彼にその自覚はなさそうだ。加減を知らずにやらかし続ける帰蝶が悪い。とにかくすべて帰蝶が悪い。
雑賀衆が美濃を直接目指さずに熱田に降りたのはさほど不思議なことではない。南蛮船では長良川を遡上できないので小型の船に乗り換える必要があるからだ。
しかし、雑賀衆が降りた南蛮船はともかく、もう一隻の南蛮船は……?
信長の疑念を察したのか孫一が解説してくれる。
「ん。堺の南蛮船」
「堺が南蛮船を買ったのか?」
「
「なんともはや」
帰蝶が南蛮船ではじめて堺に行ったのは、数ヶ月前だったか? この短期間で大型船を一隻作り上げてしまうとは、何とおそろしき堺の財力と造船能力であろうか。
「……いえいえ、それ以前から準備と研究はしておりましたので」
と、追加で説明したのは堺の豪商・今井宗久。遅まきながら挨拶をしてきたので信長も答える。
定型文の挨拶を交わしたところで信長は改めて堺製だという南蛮船を観察した。
「ほぉ、見れば見るほど瓜二つであるな」
「以前から南蛮船を調べて模造しようと下準備をしていたのですが、やはり内部構造は分からず……そこで帰蝶様が南蛮船の造船知識を与えてくださり、実物の見学も許可してくださったので一気に建造が進んだのです」
「で、あるか」
戦国日本における南蛮船の自力建造。
今はまだ一隻だけだが、いずれは量産もできるようになるだろう。……というか、それを狙って帰蝶も造船知識を与え、実物まで見学させたのだろうが。
まったく何を狙っているのやら。
大艦隊に乗って日之本を飛び出す帰蝶。その光景を易々と想像できてしまう信長であった。
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