第652話 弑逆。目下の者が主君や親を殺すこと。by自動翻訳


 斯波義統、弑逆しいぎゃくさる。


 その報告をした忍者は緊張の糸が切れたのかその場で気絶してしまった。


 う~ん、この時代だと仕方ないとはいえ、情報伝達に時間が掛かりすぎよね。しかも一つの情報を伝えるために兵を酷使し、馬を潰してしまうのは非効率きわまりない。


 ここは新しい情報伝達手段が必要ね。


 そういえば。以前ナポレオンが使っていた腕木通信を整備しようと考えたことがあったっけ。なんやかんやで忘れていたけれど。


『何でもかんでも興味のあることに手を伸ばすから、そうやって次々に忘れて放置することになるんですよ?』


 プリちゃんによるガチ目のお説教であった。思い出したのだからいいじゃないか。解せぬ。


 そんなやり取りをしている間。光秀さんたちは慌てて出陣の準備をしていた。川を使えば比較的短時間で事件現場である清洲城へと向かうことはできる。できる、けど……。


「どうするんです? 城攻めをするつもりですか?」


 父様に確認する私。

 この前美濃東部を電撃的に制圧できたのは私の転移魔法と、この時代では革新的すぎる鉄砲の集中運用があったからこそ。


 でも今回は私も転移魔法を使うつもりはないし、近衛師団の中枢戦力である鉄砲隊はまだ大坂の淀城に駐留したまま。鉄砲のない近衛師団なんて、まだまだ編成されたばかりの未熟な戦力なのだから、そう簡単に城を落とせるとは思えないのだけど……。


 私の懸念なんて、当然父様も気づいている。


「うむ。それについては問題ない。信友が兵を率いて出陣したあと、もぬけの殻となった城を落とせばよい」


「信友が、出陣? 一体どこに?」


「おるだろう? 斯波義統が弑逆されたと聞いたとき、すぐさま軍を動かせる男が」


「……あぁ」


 三ちゃん。

 織田信長であれば、たしかに動けるでしょう。


 寄親寄子制では考えられないほど早く兵を集めることのできる馬廻衆。森可成や前田利家(犬千代)といった配下の猛将たち。そして何より、史実において戦国の世を平らげた決断力。


 三ちゃんなら動く。

 私も、父様も、確信を抱いている。

 だからこそ『動く』ことは大前提として話は進む。


「三ちゃんが清洲城を攻めるとして。信友は城から出てきますか?」


 一般的に、城を攻めるには防御側の三倍の兵が必要とされている。つまりは城があるなら城に篭もった方が圧倒的に有利。そんな籠城をせずに出陣するだなんて……。


「出て行かねばなるまい。籠城とは他からの救援があるからこそできるもの。だが、守護を弑逆した信友に味方する勢力などもはやおらぬし、のんびり籠城していては信長の『舅』である儂が清洲城に兵を差し向けるかもしれぬ。――信友に残された道は、打って出て信長軍を撃破する短期決戦しかない」


「ふぅん」


 私だったら守護を殺す前にある程度味方を増やしておくけどなぁ。とは、理性的すぎる考えなのでしょうきっと。父様に言わせれば「人間はそこまで理性的ではない」となるのでしょうきっと。


 ま、美濃のマムシのお手並み拝見といきましょうか。


 準備に奔走する光秀さんたちを見守りながら、そんなことを考える私だった。



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