第650話 妖術師系ヒロイン


 ……なぁんか嫌な予感がするでござる。


 所用を終えて稲葉山城に戻ってきた私は、思わず西の方を向いてしまった。

 正確には嫌な予感というか、面倒くさいことになりそうな予感というか。


『あなたのそういう勘はよく当たるので、やめてもらえません?』


 自分の意志で勘を止められるかい。


『あなたならどうとでもなりそうですが?』


 プリちゃんは私を何だと思っているのか。解せぬ。


 いやしかし、なんだか加賀方面がヤバそうな気がするので、ここは先手必勝。大坂~加賀あたりを一面焦土にしてしまうべきでは?


『やめろバカ』


 大丈夫、焦土にしたあとにさらに発展させれば最終的にプラス評価である。


『やめろバカ』


 もういっそ加賀から大阪まで水没させて大運河を作ってしまえばいいのでは? いつまでも終わらぬ戦国の世に薬師如来様がお怒りじゃ~。


『やめろバカ』


 おざなりなツッコミであった。解せぬ。


【ちなみによく混用される『おざなり』と『なおざり』ですが……おざなりがいい加減ながら対応ツッコミしてもらえるのに対して、なおざりは何の対応ツッコミもされないことを差します。……プリさんになおざりな態度を取られないよう自粛するべきかと】


 自動翻訳ヴァーセットによるお説教(?)であった。


 ちなみにこの自動翻訳ヴァーセット、ノリと勢いで錬成した人体に突っ込んだ結果、蒼髪美少女の肉体を得たのである。つまり今の自動翻訳ヴァーセットは知的蒼髪美少女! これはこれで素晴らしいものだと断言できるでしょう!


『…………』


 さっそくプリちゃんからな・お・ざ・りな対応をされてしまった。マジすみませんでした。


 と、そんなやり取りをしていると、美濃西部にいた長井道利さんが稲葉山城に戻ってきた。この人、父様(道三)の年の離れた弟なんだけど産まれた直後に父が他界、兄である斎藤道三を父代わりとして育てられたというちょっとややこしい人物なのだ。


 まぁでも、この人も私の叔父さんということになるのかな?


 道利さんは父様となにやら密談したあと、朗らかな笑顔を浮かべながらこちらにやって来た。


「いや、姫様。お久しゅう御座います。少し見ないうちにますます美しくなられて――」


「…………」


 この道利という人、外見としては父様そっくりなのだ。具体的に言うと髪の生えた斎藤道三。そんな見た目の人がニコニコしながら『よいしょよいしょ』してくるのは――いとキモし。


『人の心とかないんですか?』


 いやでも待って欲しい。自分の父親そっくりな人から美しいだの何だのと褒められたらゾッとするものではないだろうか?


『……まぁ、気持ちは分からないでもないですが……』


 プリちゃんすらフォローするのを諦めてしまった。マムシの遺伝子(顔)、恐ろしや。


「そういえば姫様。なにやら近頃の都周辺では『果心居士』なる怪しい妖術師があらわれているらしく。……また姫様が何か悪巧みをしているので?」


 おい。

 またってなんやねん。悪巧みってなんやねん。なんで『怪しい妖術師』で私を連想するねん。それではまるで私が年がら年中悪巧みしている怪しい人物みたいじゃないの。


『まさしくその通りなのでは?』


 解せぬ。


『しかし、果心居士ですか……。戦国時代に現れたとされる妖術師ですね。織田信長や徳川家康、明智光秀、松永久秀らの前に現れたとか』


 う~ん全員私の知り合いー。


『……この短期間で有名どころとあれだけ交流を持っているのが……』


 プリちゃんから大絶賛されてしまった。照れるぜ。


『あとは豊臣秀吉から危険視されて処刑されたとか何とか』


 つまりあとは豊臣秀吉と交流を持てばパーフェクト(?)か。というか三ちゃんの側にいて豊臣秀吉と出会わないなんてことはないだろうし、これはもうパーフェクト果心居士(?)の称号は貰ったようなものね。いや果心居士とは会ったこともないけれど。


『むしろ信長や家康らと交流があった妖術師となると……あなたのことが後世に伝わっちゃっただけなのでは?』


 誰が妖術師やねん、誰が。



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