第632話 養生院へ
養生院に到着すると、とても繁盛していた。そういえばここに来るのも久しぶりかもね。
『作るだけ作って放置する。ほんと悪い癖ですね』
しみじみと呆れるの、やめてもらえません?
いやほらあれだから。信じて託しただけだから。千代さんたちなら安心して任せることができただけだから。やってみせ 言って聞かせて させてみて 褒めたのだから任せればいいじゃない?
『そういうところです』
こういうところらしい。
さて、久しぶりの養生院である。
最初は治癒魔法の認知度が低かったのでお試し価格での治療をしていたけれど、今では通常料金を徴収しているからそこまで混んでいないはず。
と思っていたのに、治癒希望者の列が結構な長さになっていた。
まぁ稲葉山の城下町は日々拡張しているし、それに伴い人口も増加中。怪我人も増える一方なのは納得できるけど……ずいぶんと男性の割合が多いような? いやこの時代の仕事だと男性のケガが多いのは納得だけど、それにしたって多くない……?
……ははーん。こやつらの何割かは千代さん狙いね? 帰蝶ちゃん分かっちゃった。こう、綺麗な女医さん目当てで病院に通ったり、美人な保健室の先生目当てで常連になるみたいな?
無関係なことなら微笑ましいなーっと冷たい目を向けるところだけど、千代さんの負担になるようなら対応を考えないとね。ゴリゴリのマッチョな治癒術士を追加しちゃう?
『この時代、それはそれで人気が出る可能性も』
性に奔放な戦国時代であった。
養生院は治癒術をメインとしているので、入院施設はない。……なかったはずなのだけど、建物の一角に布団が敷かれ、病院らしき人たちが寝込んでいるわね?
ちなみにあの布団は生駒家宗さんと協力して作ったもので、養生院のスタッフ向けに配布したもののはずだけど……入院患者(?)のために使っているらしい。
「あ! 帰蝶様!」
私が養生院を見渡していると、私の存在に気づいた千代さんが駆け寄ってきた。う~ん美人さん。なんかこう、しばらく見ないうちに一層綺麗になった。働く女性は美しい、的な?
「久しぶり。頑張っているみたいね?」
「帰蝶様に託された仕事ですので! この千代! 粉骨砕身の覚悟で事に当たらせていただいております!」
キラッキラした目を向けてくる千代さんだった。あれこの子こんなに忠誠心(?)高かったっけ? ……いや最初の方から割とこんな感じだったか。
「帰蝶様よりご教授ただいた治癒術によって多くの民を救うことができました! この術がなければどれだけの人々が命を落としたことか……。それもこれも熊野の秘術を惜しむことなく我らに託し、民草のために解放してくださった帰蝶様のおかげです!」
キラッキラした目以下略。そういえば『魔法』って説明するのも面倒だから熊野の秘術的な説明をしたんだっけ。
しかし、端から見ると私って「秘術を開示して民を救った」ことになるのか。あれそう聞くと私って凄くない? 聖女じゃない? いやぁそれなら千代さんからの尊敬というか忠誠というか信仰の眼差しも納得できるというものよね。さすがは私だわ!
『そういうところです』
≪そういうところじゃぞ?≫
「そういうところだと思うなぁ私」
【そういうところかと】
まさかのカルテット☆ツッコミであった。解せぬ。
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