第630話 西洋医学を教えてみた
父様との腹黒会議も終了したので、テキトーに部屋を借りて稲葉一鉄さんへの講義開始である。……よく考えたら城下に行って養生院で教えればよかったのか。そうすれば優秀な治癒術士に育った千代さんとかもいるのだし。
『気づくのが遅ーい』
遅まきながらも気づいたこと自体を評価して欲しいところ。無知の知である。
『無知であることを自覚しても、それを矯正できなければ何の意味もないんですよ……?』
心底残念そうな声、やめてもらえません?
さて、講義の前に。稲葉一鉄さんに治癒魔法の才能があるか確かめましょうか。――ほぁああぁあっ!
『また格好悪いトンチキな掛け声(?)を……』
こんなにもカッコイイ決めセリフ(?)だというのに。解せぬ。
それはともかく。一鉄さんには回復魔法の才能がなかった。まぁ元々貴重だから是非も無し。
ちなみに健康状態はとっても良かった。さすがは史実で長生きするだけはあるね。
閑話休題。治癒魔法の才能がないのだから、ここは普通に西洋医学を伝授しましょうか。
とはいえこの短い時間にすべてを教えることはできないので、さわりだけ。特に西洋医学と漢方医学の違いなどを。
現代人からすれば西洋医学こそ正義って感じだろうけど、漢方もあれはあれで効果的というか、根本的な考えが違うから優劣を決めるようなものではない。外科に関しては西洋医学だろうけど、病院に行っても治らなかったのに漢方を飲んだらよくなった――的な話はよくあるし。
ただまぁ、漢方は漢方で学ばなきゃいけないことが多いし、この時代だと間違っている知識もあるし、そもそも生薬の質が悪くて効きが悪いということもある。
一鉄さんに西洋医学のさわりだけを教えながら、それでも理解するために必要な知識量にげんなりする私。一鉄さんは戦国武将だから応急処置メインに教えればいいけれど、専門家を育てるとなると私一人の手ではとても足りない。
つまり、必要なのは正確な知識を、多くの人間に伝えることができる教育機関。
養生院では治療行為をしながら治癒術士の育成をしているし、戦傷者雇用の一環として漢方の薬を生産販売しているのでそれなりの人材はいる。……けど、どちらも実戦的すぎるというか、結果だけ教えたので理論理屈への理解が乏しいというか。
簡単に言うと。対症療法だけ見れば立派な医者や薬師ではあるけれど、基礎ができていないので自分たちで考えたり研究することはできないと。
と、そんなことを考えていると、稲葉一鉄さんも同意見のようだった。
「姫様。西洋医学とやら、一朝一夕ではとても学びきれぬでしょう。……ここはじっくりと腰を据えて勉学に励める場を整えるべきかと」
「お、私も今それを考えていたところでして」
「拙者が言うまでもなく気づかれておりましたか。さすがは姫様です」
隙あらば「よいしょよいしょ」してくるのを忘れない一鉄さんだった。今のところ頑固そうな様子は見受けられないでござる。
「この前の城下町の大火事で、ずいぶんと空き地ができましたから。養生院の隣に学校を建てられるくらいの用地は確保できているんですよね」
用地を確保するために燃やした? 土岐頼芸に罪をすべてなすりつけた? HAHAHA,何を言っているか分からないでござるよ。
『そういうところです』
≪そういうところじゃぞ?≫
「そういうところだと思うなぁ私」
【なるほどこれが「腹黒ポンコツ女」……】
はい
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