第629話 もうやめて! 光秀さんの本能寺ポイントは以下略


 ボロボロの坂井大膳さんをお風呂へとご案内したところで。私とお父様による腹黒会議開催と相成った。お兄様はもう帰ったらしい。

 ……その代わりと言ってはなんだけど、稲葉一鉄さんが同席している。父様が追い出さないということは、こういうダークネスな話を聞かせても大丈夫な関係なのでしょう。父様の義理の弟だし。


「というわけで。帰蝶、近衛師団を尾張にまで派遣してもらおうか」


 このオヤジは説明が少なすぎである。そんなだから実の息子に討ち取られるんですぞ?


 え~っと、父様のことだからどうせ……。


「……お義父様(織田信秀)との約束通り近衛師団を那古野城へ派遣。その途中で坂井大膳さんからの救援要請を受けたので、大逆人織田信友の手から尾張守護斯波義統を救い出しました。という流れストーリーですか?」


「分かっているなら話が早い」


「とは言っても近衛師団の鉄砲隊はまだ淀城にいますし、その他の戦力は苗木城(美濃東部)に駐屯していますよ?」


 私が転移魔法で移動させてもいいんだけど、あまり簡単に移動させては訓練にならないからね。軍隊というのは足を鍛えないと。厚い皮膚より速い足とナポさん家のレオンさんも言っているし。


『それを言ったのはナポレオンじゃなくてグデーリアンですね』


 軍人の名言にも詳しいらしい。凄いなプリちゃん。


「なに、苗木城からであれば木曽川とその支流を使えばさほど時間は掛からぬ」


「へー」


 私はまだその辺の地理に明るくないからなぁ。……そういえば明智光秀さんは美濃東部出身なんだっけ?


「そうなんですか?」


 ついてきていた光秀さんに確認を取る私。


「うむ。苗木城はすぐ横を木曽川が流れているからな。船さえ確保できれば、清洲まではさほど時間も掛からぬだろう」


「そうですか。では私たちは先に向かいますので――光秀さんは苗木城に向かい、近衛師団を引き連れてきてください」


「…………、……わ、儂はどうやって苗木城まで移動するのだ?」


「それはもちろん――転移魔法です!」


 有無を言わせぬ早業で光秀さんを転移させる私。


「ぬぐわぁあぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!?」


 まるでサイレンのドップラー効果のような悲鳴を上げながら苗木城へ転移する光秀さんだった。


『……本能寺ポイントがまた溜まりましたね』


≪是非もないな≫


「あまりに憐れ。その時は私も協力してあげましょう」


 師匠ータス、お前もか。





「斯波義統さんを確保したあとは、どうするんですか? そのまま尾張守護代にでもなりますか?」


 坂井大膳が守護代になるはずだって? ははは、主君を簡単に裏切るような人間を重用するわけないじゃん? 一度裏切った人間は二度三度と裏切るのだから首を刎ねろ。曹操ならそう言う。


「それもよいが、ここは三郎(信長)にくれてやれば良かろう」


「あら、ずいぶんと太っ腹ですね? そこまで気に入りましたか?」


「無論、我が義理の息子であるからな。……それに、今は美濃東部を得たばかり。さらには土岐めを排除すれば西部も手に入る。現状でも統治のための人材が足りぬと言うのに、尾張にまで手を出す余裕はない」


 裏切ってばかりの国人領主が許されてそのまま土地を治めるというのはよくあるパターンだけど、それにはこういう理由がある。統治能力があり、土地の有力者らとコネがある人材は中々に得がたいのだ。


 まぁ、私はその辺をどうにかするために学校を作り、役人を量産しようとしているのだけどね。


 しかし、余裕がないとはいえ簡単に諦めるとは……。なんとも『美濃のマムシ』らしくない謙虚さだけど、こういうとき欲に駆られず無茶をしないからこそ国盗りを実現できたのでしょう。


『いえ、どこが謙虚なんですか?』


≪東部だけではなく西部までもを手に入れようとしている男が?≫


「謙虚に見えちゃうあたり、帰蝶の貪欲さが透けて見えるよね」


 解せぬ。私ほど謙虚で慎み深くて清貧に安んじる系美少女はいないというのに。


『そういうところです』


 こういうところらしい。



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