第624話 久しぶりの美濃
まぁ、色々あったけど。尾張守護・斯波義統さんの歓待は大成功を収めた。
『
文句の付けようのない大成功であった!
『そういうところです』
こういうところらしい。
さて。那古野城の障壁画は狩野派の狩野松栄さんにお願いするとして。その前に絵を描くための壁やら何やらを作らなければいけないので急ぎというわけでもない。
というわけで。まずは美濃まで戻って父様(斎藤道三)に色々と報告。近衛師団を派遣する許可をもらいましょうか。友好目的とはいえ、他国に軍隊を派遣するのだから打ち合わせはしておかないとね。
『何と常識的な思考を……』
まるで普段の私が常識的な思考をできていないみたいな物言い、やめてもらえません?
『みたい、ではなくて、できていないのです。微塵も。一度たりとも』
い、一度たりともは言い過ぎなのでは?
「……是非も無し」
師匠からの無情な一言であった。解せぬ。
◇
「――お久しぶりの美少女です!」
いつも通り津やさんの茶屋に駆け込み、小粋な挨拶をした私である。
「……なんだい、また珍妙な挨拶だねぇ?」
「ふっふっふっ、実際美少女なのですから美少女と名乗るのはもはや世界の摂理でしょう!」
「またよく分からない言葉を……ま、とりあえず、おかえり」
「ただいまです! 何か変わったことはありましたか?」
「そうだねぇ。噂では守護様がだいぶ荒れているみたいだね」
守護というと美濃の(本来の)国主・土岐頼芸さんか。味方になった安藤なんとかさんが討ち取られちゃったんだっけ?
『いや美濃三人衆の名前くらい覚えてくださいよ……』
くらいとおっしゃいますが、現代日本人で美濃三人衆の名前を言える人がどれだけいると?
「まったく。この前の戦で守護様もずいぶんと酷い敗戦をしたみたいでねぇ。追放されるのも時間の問題だって話だよ」
はたして追放で済むだろうか? 今の父様はたぶん「次世代のために汚名は儂が被っておこう」くらい考えていても不思議じゃないし。マムシのくせに殊勝な。そういうところだぞ?
ま、その辺は土岐さんの態度次第でしょう。大人しく降伏すれば生き残れるかもしれないし。のんびり絵を描く余生が待っていることでしょう。抵抗するならサヨウナラだ。
「あとは……そうそう。稲葉様が山城守様(道三)にご挨拶に来ているんだったね」
「稲葉様というと?」
「稲葉良通様だね」
『稲葉一鉄のことですね。まぁこの時期はまだそう号してはいませんが』
あぁ、頑固一徹の語源になった人か。面白そうだから顔を出してみましょうか。
『面白そうって……。そういうところです』
こういうところらしい。
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