第622話 合法。……合法?


 お料理が美味しかったおかげか。あるいは三ちゃんの『天下布武』を気に入ったのか。斯波義統さんは上機嫌で清洲城へと帰っていった。


 いちおう天守は義統さんに献上したのだからここに住んでもらってもいいのだけど……なにせまだ工事中だからね。


 那古野城天守って外見だけは完成したけど、内装はまだなのだ。そこまで作る時間がなかったというか、手抜きをしたというか……。


『うまく残れば国宝や世界遺産になれるような建造物で手抜きをするな』


 むしろ手のひらを『ぱぁん』と打ち鳴らしただけで外装を完成させた手腕を褒めていただきたいのですが?


『なんでこう、持っている力は凄いのにやることは杜撰ずさんになるのか……』


 やれやれと呆れられてしまった。解せぬ。


 それはともかく。まだ内装工事で人が出入りする場所に守護を住まわせるわけにはいかないということで、斯波義統さんのお引っ越しはまた後日ということになった。


 というわけで三ちゃんと内装などの相談である。


「史実の那古野城の内装はこんな感じよね」


 不思議な力で入手した名古屋城の写真を三ちゃんに見せる。天守というか御殿の内装だけどね。


「ほぉ、なんと美麗な……。これは面白い。ぜひ那古野城もこのような感じにしたいものよな」


 安土桃山っぽさが気に入ったのかノリノリの三ちゃんであった。


『……もはや『史実』という単語へのツッコミすらありませんか……』


 人間慣れが大事なのである。


『慣れというか諦めというか』


 やれやれと肩をすくめられてしまった。プリちゃんは光の球なので肩なんてない以下略。


「障壁画なら狩野派に描いてもらうのが一番だけど……あ、そういえばコネがあるわね」


 かつて堺と平野郷との間に吉兆教の寺院を作るという話になったとき、ご本尊となる仏像はすぐに作れないからとりあえず肖像画を本尊として使いましょうと武野紹鴎さんが絵師を連れてきてくれたことがあったのだ。

 まぁその寺院は完成前に大坂本願寺に焼き討ちされちゃったのだけどね。それは仇を討った(?)のでとりあえずいいとして。


 その肖像画の依頼をした絵師の名前は、狩野松栄。私の顔を戦国チックに描いてくれやがった人物だ。


 息子の狩野永徳ばかりが有名で、狩野松栄の方の知名度は今ひとつだ。

 いや個人的には狩野松栄の柔らかなタッチが好きなんだけどね。


 障壁画は狩野松栄さんに書いてもらうとして……。義統さんに天守のお披露目はしたのだから、本丸周りも建設し始めましょうか。あまり周りをゴチャゴチャさせてしまうと天守が目立たないからと自重していたのよね。


 ……ここはいっそ『超城合体☆スーパー那古野ジョー・マークⅡ』を作るべきなのでは?


『そろそろ真っ当な戦国時代好きから暗殺者を差し向けられるのでは?』


 私を殺せる暗殺者がいるなら会ってみたいものである。


『そういうことじゃありません』


 こういうことじゃないらしい。


 変形合体は漢女おとめの浪漫なのになぁと解せぬりながらも、三ちゃんと那古野城の縄張りを考えていく。


「実用性を考えるなら星形城塞もありよね。火砲の射程距離が長くなればあまり役に立たなくなるけど、この時代ならしばらく現役だろうし」


「それは淀城のような縄張り、であったか? ……なるほど、あれであれば効率的に火縄銃を使えそうであるな」


「おっ、遠くから見ただけなのによく分かっているじゃないの。……ただなぁ、あまり星形城塞ばかり作るのも芸がないというか。面白味がないというか。あの四角四角した史実名古屋城も捨てがたいというか」


「よく分からぬが、ここは縄張りに詳しそうな帰蝶に任せる――任せる? 任せて……任せて……?」


 まるで私に任せるとトンでもない城が出来上がりそうだなぁとでも言いたげな三ちゃんであった。解せぬ。


『那古野城を変形合体ロボにした前科がありますからね。是非もないですね』


 前科とは失礼な。『合体変形ロボ城を作ってはいけません』なんていう法律はないのだから前科など付きませーん。


『いやあなた息をするように法律違反しますし。道徳も破壊しますし。良心なんて欠片もありませんし……』


 げ・せ・ぬ。



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