第620話 仕切り直し(ダイスロール)


 さて。斯波義統さんも座り直して落ち着いたところで。


『座り直したというか強制的に座らされたというか』


≪落ち着いたというか精根尽き果てたというか≫


「そうやって力業で解決してばかりいるからプリちゃん以外に友達ができないんだよ?」


 師匠による火の玉ストレートであった。と、友達なら他にも玉龍がいるもん。……元いた世界ではどうだったかって? 黙秘権を行使します。







 こういうときは酒だ。酔わせてしまえば多少の失態は誤魔化せるというものだ。


『そういうところです』


 アルコールの力を大絶賛するプリちゃんであった。


「おぉ、おぉ、これはこれは……」


 最初は酒に逃げているって感じの義統さんだったけど、酒が回れば気が大きくなるのか、ずいぶんと顔色がよくなってきた。


『気が大きくなったというか、SAN値チェックでダイスロールに成功しただけというか……』


 まるで私がクーでトゥルーな邪神と同類みたいな物言い、やめてもらえません?


「私のお酒ぇ……」


 なにやらアル中が嘆きの声を上げていたけれど、我が師匠がそんな情けない鳴き声を出すはずがないので気のせいだ。


 さて。色々あったけど仕切り直しということで。義統さんにはマグロ料理を楽しんでもらいましょう。


「まずはお刺身を。こちらは『醤油』と『わさび』でお召し上がりください」


「しょうゆ、とな? なんとも不気味な色だが、なんとも食欲をそそる香りであるな」


 酒で判断能力が鈍っているのか、あるいは恐怖が身にしみたのか、今度は大人しく箸を伸ばす義統さんだった。

 おそるおそる、でありながらもちゃんと醤油に切り身を浸けて口に運ぶ義統さん。


「――ほぉほぉ! なんとも芳醇な香り! そしてなんという柔らかさ! これが死日であるとは信じられぬな!」


「わさびを付けるとまた食味が変わるかと。ただ、あまり付けすぎると辛いので注意してください」


「この緑色の薬味か。どれ……おぉおっ! これはまたなんと刺激的な! だが! これはこれで美味いぞ!」


 う~ん、いちいち驚いてくれるから作りがいがあるわね。舌がバカ――じゃなくて、シンプルイズベストな味覚を持つ三ちゃん相手ではこうはいかないわ。


「続いて揚げ物など」


「これはまた奇妙な……。だが、おぬしの出す料理なら――おぉ! 刺身とはまた違った口当たり! これは米が欲しくなるな!」


「ではどうぞ」


「ほほぉ! この白米も何と食味の良い! 噛めば噛むほど甘くなるかのよう!」


「じゃあ次は――」


 美味しそうに食べてくれるので、ついつい調子に乗って様々な料理を作ってしまう私であった。


 なお、三ちゃんも一緒に食べていたのだけど「うむ、美味いな」としか言っていなかった。そういうところだぞ?




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