第619話 もったいないオバケが出る――オバケの方がマシだな



「はははっ、食べ物を粗末にするとか。笑える」


 にっこりと。

 微笑みかけると義統さんは立ち上がった態勢のまま固まってしまった。食べ物を粗末にしたという自らの罪を自覚して茫然自失となっているみたい。


『いや威圧ズウィンが発動していますから』


≪龍すら肝が冷えるな……よくぞあの男は心臓が止まらぬものよな≫


「むしろ一瞬で気絶したから逆に命拾いしたような感じかな?」


 まるで私が威圧ズウィンだけで人を殺せるみたいな物言い、やめてもらえません?


『殺せるでしょう?』


≪殺せるじゃろ≫


「殺せるだろうねぇ」


 解せぬ。


 さて。気絶されたままでは話が進まないので、手を『ぱぁん』と打ち鳴らして気付け・・・する。


「は!? わ、儂は何を……ひぃ!?」


 今度は気絶されないよう、料理を運んできたゴーレムで両脇を固め、そのまま座らせる。ちなみにちょっとした演出としてゴーレムは巨大化。天井に頭を擦りつけるくらいの大きさになっております。


『またそうやって一般人を怖がらせる……』


 はたして『尾張守護』は一般人枠でいいのかしら?


「ひ、ひ、ひっ」


 なんだか過呼吸を起こしそうな斯波義統さん。冷や汗だらだらで目の焦点も合っていない。高山病かしらね?


『天守に登ったくらいで高山病になるか』


≪龍すら縮こませる威圧ズウィンを受けた直後に、あんな巨大なゴーレムに囲まれればな≫


「ほんと人を怖がらせるのが得意だよね」


 まるで私が化け物であるかのような物言いであった。解せぬ。


『化け物?』


≪化け物という言葉では生温いのぉ≫


「そもそも大抵の化け物は人間の手で退治できるものだしね」


 まるで私が人間には倒せない系の以下略。


 化け物以上扱いをされたのなら是非もないわね。ここは化け物以上らしく徹底的に怖がらせて――


「――帰蝶。まぁ待て。武衛様も『死日』と聞いて驚いただけだろう。何も言わずに出したこちらにも非があるというものよ」


 と、三ちゃんが仲介に入ってきた。

 もちろん三ちゃんとしても「わざとじゃないんだろうからー」と本気で考えているわけではないでしょう。つまりまだ守護を排する気はないし、害する気もないと。


 う~ん……。


「――ま、ここは三ちゃんの顔を立てましょうか」


 ぱぁん。と、私が手を打ち鳴らすとお膳は元通りになった。もちろんその上に載せられていた料理もまた。


 ばっちい? 時間ごと巻き戻したので汚くありませーん。


『また気軽に時空をゆがめる……』


 時は戻したけど空間はゆがめていないのでは?


≪時が戻れば各所に歪みが出るじゃろうに≫


「こういうところに無頓着だから後々とんでもないことになるんだよね。まぁ被害を受けるのは本人だから別にいいんだけど」


 解せぬ。

 時空が歪んだなら力尽くで元に戻してしまえばいいだけだというのに。まぁちょっとミスしてさらに捻れちゃう可能性もなきにしもあらずだけれども。


『そういうところです』


 こういうところらしい。



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