第618話 あーあ
こんなにでかくて目立つ天守を、守護(国主)である斯波義統に献上する。三ちゃんの忠節は人々の知ることとなり、義統さんの
『現在斯波義統は清洲城内の守護邸に住んでいるはずです。どのような建物かは想像するしかありませんが、攻められて自害した際の抵抗の様子からそれなりの防御力を有していたと考えられます』
つまり、織田信友とやらの元でも冷遇されているわけではないと。
そんな信友との格の違いを見せつけるためには、やはり守護を天守に住まわせるのが一番
『信長さんそこまで考えていますか? ノリと勢いで決めただけでは?』
HAHAHA,何を言っているか分からないですネー。
ま、とにかく。
守護である斯波義統さんも満足げだし、この天守は三ちゃんのものなのだから私が口を出すものでもない。なによりこの献上によって三ちゃんの名声はうなぎ登りで実質的な守護代になれるのだから反対する理由なんて皆無である。
「では、話が纏まりましたところで歓待の宴と参りましょう」
ぱんぱんと手を叩く私。それに呼応して何人かの人間がお膳を持ってきた。いや人間というかゴーレムだけど。
「此度の饗宴は我が母の祖国で行われるものを参考にいたしました」
はい嘘です。いきなり式三献の様式を否定すると反発を招くし、「舐めてるのか!?」となる可能性もあるからね。ここはまったく違う文化のものであると説明した方が後腐れしないのだ。
「ほぉ、おぬしの母というと……」
なんだか懐かしげな顔をする義統さんだった。私の母親、もしや尾張の守護とも交流があったとか?
『まぁ、可能性はありますね。あなたの母親なら』
解せぬ。
『今の時点で将軍足利義輝と交流があり、細川政元を弟子にして、三好長慶とも仲良くやっている人間のくせにどこが「解せぬ」のですか?』
おぉ、そう聞くと手広くやっているわね私。だいたいお金儲けと三ちゃんのことしか考えていないのだけど。
『そういうところです』
こういうところらしい。
ま、それはともかく、義統さんの前にお膳が並べられたので、まずはお料理の説明といきましょうか。
「本日は伊勢湾で取れましたクジラとマグロを主な食材といたしました」
「クジラは分かるが……マグロとは?」
「この時代だとシビと呼ばれていますね」
「な、なんと!? 死日だと!? おぬしら、このような場で死日を出すなど、どういうつもりであるか!?」
ガッシャーンと。
怒りのあまりお膳をひっくり返してから立ち上がる義統さん。
そう、お膳がひっくり返り。
当然のことながら、私の手料理が床にぶちまけられてしまった。
『あーあ』
≪あーあ≫
「あーあ」
心底同情した声を上げながら手を合わせるプリちゃん・玉龍・師匠であった。
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