第606話 接待準備


 今気づいたけど、なにやら那古野城の中が騒がしいわね? いや、騒がしいというか、忙しないというか。


「なにかイベントでもあるの?」


 もちろんこの時代に『イベント』なんて言葉以下略。自動翻訳ヴァーセットが頑張った以下略。


『部下の頑張りを以下略するな』


 スキルって部下という扱いなの……?


「うむ。武衛様が那古野城に来るというのでな」


 プリちゃんとのやり取りは聞こえているはずだけど、華麗にスルーして話を進める三ちゃんである。


「ぶえー?」


『武衛。元々は天皇や皇族を守る武官のことですね。源頼朝が武衛と呼ばれていたことが有名でしょうか?』


 いや有名ではないのでは? 歴史オタの常識を一般人に適応するのは止めていただきたい。


『一般人……?』


 まさかのツッコミ返しであった。解せぬ。


『武衛は兵衛府の唐名とされており、特に左兵衛督・右兵衛督は名誉ある職とされていたようですね。この時代は斯波氏が『武衛家』と称されていましたので、武衛様とくれば尾張守護斯波家当主のことですね』


 え~っと、つまりは上司が城に来るってこと?


『上司……。まぁ、上司でいいですか。政治権力者が部下の邸宅へ赴く。いわゆる御成おなりですね。基本的には将軍が外出する際に使われていた言葉のようですが、後には大名の外出時にも使用されていたみたいですね』


 ほ~ん。


『ここで重要なのは陪臣の息子――直接の家臣というわけではなく、まだ家督を継いだわけでもない信長さんの居城・那古野城に尾張守護がやって来ることですね。――織田弾正忠家の『次』は織田信長。そして、『次』の守護代は織田弾正忠家。今回の御成りはその未来を広く喧伝することになるでしょう』


 なんかよく分からないけど、三ちゃんにとって重要イベントっぽい。


 ここは嫁として! 正妻として! 全力で応援しようじゃないの!


『世界を滅ぼすのは止めなさい』


 まるで私が全力を出すと世界が滅びるみたいな物言いであった。解せぬ。







 偉い人が来るのなら、豪華な料理を出さないとね。


『いわゆる饗宴ですね』


 とりあえず空間収納ストレージに放り込んであったお肉(何のお肉かって? 気にするな、私も気にしない)を使ってお肉料理を作るとして……。この時代の仏教的にお肉は拒否されるかもしれないから、他のメインディッシュも準備しておかないとね。


 肉が駄目なら……魚? マグロでも釣りましょうか。


 というわけでちょっと海まで行って魚釣りと洒落込んだ私と三ちゃんである。


「いや、わしはまだ準備が終わってないのだが……」


 織田信長らしからぬ常識的な返事はまるっと無視して、海へと転移した私と三ちゃんであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る