第607話 ふぃっしーんぐ


「大・到・着っ!」


 シュタッと10点満点の着地を決めた私である。


『体操競技で10点満点が採用されていたのは2006年までですね』


 プリちゃんが何を言っているか分からなかった。不思議なこともあるものだ。


「……う~む、『てんいまほう』とやらは何度経験しても慣れぬなぁ」


 とは言いつつ、平気そうな顔をしている三ちゃんであった。何という適応力。光秀さんとはひと味違うぜ。


『一般人からすればむしろ光秀さんが正常なのですが』


 まるで私の夫が非常識みたいな物言い、やめてもらえません?


『常識的な人間はあなたと付き合うだけで精神崩壊します』


 人をクトゥルフの邪神みたいに扱うの以下略。

 ここは立派な魚を釣ってプリちゃんからの認識を改めさせるしかないわね!


≪魚を釣ったところで認識は改まらないのではないか?≫


「そういうところが非常識なんだよ?」


 三ちゃんではなくて私が非常識扱いされてしまった。解せぬ。


 それはともかくフィッシング開始である。まずは魔力を練って糸を作成。そんじょそこらの魚に切られるようなやわ・・な糸じゃないぜ。


『……ちなみに。昔、あの魔力の糸でドラゴンを絞め殺したことがありますね。あの人(?)』


≪……それは今言わなければならないことなのか?≫


 ちょっと顔を青くしながら首を押さえる玉龍だった。プリちゃんのブラックジョークは今日も冴え渡っているぜ。


 さーって、釣り針は昔使っていた大きめのものをつけてー、伊勢湾に向けてぶん投げれば準備完了である。ちなみにあの釣り針は一種のゴーレムで、大物を自動追尾、自動で獲物に突き刺さる優れものだ。予定通りマグロを狙ってもらいましょう。


「それはもはや自動追尾ミサイルなのでは?」


≪それはもはや釣りと呼んでいいものなのか?≫


 プリちゃんと玉龍による大絶賛の声を聞き流していると、糸に反応が。さっそく引っかけたみたいね。


 ……お? ちょっと重いわね? 大物のマグロかしら? だがしかし私を舐めてもらっては困る! 出でよゴーレム! 私の代わりに糸を引っ張るのだ!


『相変わらずゴーレム扱いが荒い……』


 こんなか弱い美少女にマグロの一本釣りをさせようとするのが間違っているのでは?


『間違っているのはあなたの存在・言動・生き様です』


 もはや間違っていない箇所を探すのすら困難でござる……。


 そっと涙を拭いながら私が健気に釣りを続行していると――釣れた。


 マグロ。


 じゃなくて。


 クジラが。


 あれ? クジラ? クジラってこんなに軽いの? 最初に引っかけた感触からしてもっと小さいと思ったのだけど……。


『あなたは色々と鈍いですからね』


≪クジラを引っかけて気づかないとか、鈍すぎじゃろうに≫


 解せぬ。


 ま、でも、クジラは一頭で七浦(七浜・あるいは多くの浜)潤すとされるからね。慈悲深い私は無意識のうちにマグロではなくクジラを狙ってしまったのでしょう。つまり、結果オーライである。


『……そうやって反省も改善もしないから、いつまで経っても成長しないんですよ?』


 かなりガチ目のお説教だった。解せぬ。



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