第600話 悪巧み継続中(なお三ちゃんは蚊帳の外である)


「伊勢長島はどうするつもりじゃ?」


「あー……」


 一向一揆の伊勢・尾張・美濃方面の拠点である長島願証寺は一応私の味方になっているのだけど……正直、獅子身中の虫よね。いつ余計なことをするか分かったものじゃないわ。


 長島とは木曽三川が伊勢湾へと流れ込む場所に位置していて、もし敵対すると織田にとって重要な湊である津島が抑えられてしまうものね。なんとしても直接統治したいところだ。


「……まずは長島周辺の信仰をこちらのものにしてしまいましょう」


「ほぅ? 長島から一向一揆を追い出すか。しかし、あの周辺は長年一向宗が布教をしてきた場所。そう簡単に信仰を奪えるのか?」


「死後の救済を望むのは、現世が苦しいから。死んでしまった方がマシだと思ってしまっているから。――ならば、私は現世に極楽を出現させましょう。飢えもなく、病もなく、誰もが職にありつけ、『死んでしまいたい』など夢にも思えないような極楽を」


「…………、……げに恐ろしき女よな」


「薬師如来の化身にしてこの世に極楽を生み出そうとしている私に対してひどい言いぐさですね?」


「御仏の慈悲とマムシの腹黒さが合わさると、手の付けようがないものよのぉ」


 解せぬ。


「信仰の総取りは嫁殿に任せるとして……どちら・・・のものにするのだ?」


「う~ん」


 美濃と尾張。どっちがの領地にするのかと聞いているのでしょう。


 色々と悪巧みをしているのは私だけど、今現在長島城には織田信光さんが入っているものね。しかも長島とは伊勢湾交通にとっての要衝。美濃と尾張。どちらのものにするかで争いになる可能性もあるわよね。


 まぁ、でも、


「尾張でいいんじゃないですか?」


「……よいのか? あの場の重要性を理解できぬ嫁殿ではあるまい?」


「いずれ日之本すべては三ちゃんのものになるんですから、早いか遅いかですよ」


「……呵呵かかっ! 三郎もとんでもない女から惚れられたものよな!」


 何がおかしいのかカンラカンラと笑うお義父様だった。


「おっと、長島で思い出したが。嫁殿は『軍港』で安宅船を作らせておるよな?」


「えぇ。船大工の育成も兼ねて。いずれは南蛮船を作りたいですよね」


「うむ。安宅船でも南蛮船でもいいのだが、儂らにも船を売ってくれぬか? 無論銭は出す」


「……もしかして急ぎですか?」


「最近は佐治の水軍が暴れ回っておってのぉ。おそらくは今川が後ろにいるのだろうが、このままでは海上輸送が難しくなるかもしれぬからな」


「今川が……。なるほど、こちらを散々困らせてから佐治とやらとの和睦の仲介をして、恩を売る作戦ですか」


「うむ。今川からは内々にこちらへと接触が図られていてな。おそらく和睦を狙っているのだろうが、その前にこちらを一発殴っておく腹づもりであろう」


「和睦交渉前に一発ですか。怖いですねぇ戦国大名っては」


「義元めの目論みを即座に見抜いたおぬしにだけは言われたくないわ」


 ビシッと扇子で私を指差してくるお義父様であった。解せぬ。




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