第591話 スプラッター系ヒロイン


 いきなり魔物 = 未知の猛獣との戦いを強いても犠牲が増えるだけだし、ここは専門家を育成しましょうか。


 というわけで、超勝寺実照さんを呼び、加賀一向一揆の中から腕利きを集めてもらった。


 正直、一騎当千の強者って絵巻物ではド派手で華になるのだけど、実際の戦場だとねぇ。これからは鉄砲が主流になるし、馬に乗って単騎駆けなんていう事態は早々起こらなくなる。むしろ、腕に任せて突撃するせいで部隊指揮がおざなりになったり、指揮官の言うことを無視して突撃しそうな人材は軍隊より冒険者にしてしまった方がいいのだ。


 超勝寺実照さんは脳筋――じゃなくて、筋肉でものを考えているような見た目だけど、意外と優秀で頭を使える人だからね。そつなく二十人ほどの腕自慢を集めてくれた。


「よろしくお願いいたす!」


 と、礼儀正しく挨拶してきたのは、なぜか当然のように混じっている前田慶次郎君。


「……いや、何をしているんですか?」


「迷宮(ダンジョン)での魔物討伐! きっとあの龍(ドラゴン)のような強者と戦うこともできましょう! ここは某も参加させていただければと!」


 なんかメッチャ目がキラキラしていた。ははーん、レベルを上げる感覚が癖になったな? そりゃあ筋トレをしたり武芸の腕を磨くよりは分かり易く「自分、強くなった!」と実感できるだろうけど……。


 慶次郎君には将来的に部隊を率いてもらいたいというか、三ちゃん親衛隊長あたりに就任して欲しいので冒険者稼業からは遠ざけたいのだけど……。ここで「駄目です」と言っちゃうとやる気を失うわよねたぶん。かぶき者は取扱注意なのだ。


 あとはまぁ、『Sランク冒険者・前田慶次郎』とか絶対面白いわよね。


『そういうところです』


 こういうところらしい。


 ま、とりあえず。魔物の倒し方や解体方法などを教えてしまいましょうか。

 というわけで慶次郎君や二十人の腕利きたち、あとはなぜか付いてきた細川政元や超勝寺実照さんらを引き連れてダンジョンの中へ。


 ちなみに入り口付近には私が倒したばかりのドラゴンが転がっているのだけど……。ドラゴンの肉や血は人間が食べるには刺激が強すぎるので回収。食べるのは普通の魔物にしましょう。


 ダンジョンの中に光源はないのだけど、それでもうっすらと明るくなっている。理屈? 細かいことは気にするな。


 お、丁度いいところに狼っぽい魔物が。


「じゃ、慶次郎君にお手本を見せてもらいましょうか」


「お任せくだされ!」


 準備運動とばかりに槍を素振りする慶次郎君。ちなみに槍は私が作った槍『なんでも貫け~る』だ。


『そのネーミングセンスはもうちょっと何とかならないんですか?』


 格好良すぎて他の槍の名前が霞んでしまうと言いたいらしい。照れるぜ。


「――むぅん!」


 狼の魔物が飛びかかってきたタイミングに合わせ、慶次郎君が槍を振るった。まぁ槍というのは斬撃というよりは打撃がメインだし、魔物の毛皮は切り裂きにくいのでまずは地面に打ち据える形になると思う――


 ――おん?


 なんか切り裂いちゃったわね? 真っ二つに。すぱーんと。槍ってこんなに切れ味良かったっけ?


『あなたが作った槍ですしねぇ……』


 何でもかんでも私のせいにするの、やめてもらえません? もっとこう、あるじゃない。できたばかりのダンジョンで魔物のレベルが低かったとか、慶次郎君の腕前が素晴らしかったとか。


『ダンジョンを作ったのはあなたですし、慶次郎さんのレベルが上がったのもあなたが原因。つまりすべてあなたが悪い』


 解せぬ。


 解せぬ現実から目を背けつつ、魔物の死体の元へ。


「え~っと、毛皮は防具や防寒具として使えます。骨は『ボーンチャイナ』の原料にするので回収してください。そして肉。魔物の大本は澱んだ魔力ですが、穢れは心臓付近にある『魔石』に集中しているので食べても問題はありません。ただ、魔石付近のお肉は念のために廃棄しましょう」


「「ほうほう」」


 真剣に話を聞く政元と実照さんだった。


「魔物と言っても、魔石以外は普通の生物とさほど変わりません。この中に獣を解体したことがある人は?」


 尋ねてみたけど、誰も手を上げないわね。いやこの時代に「手を上げる」という文化があるのかどうか知らないけど。


 一向一揆は庶民が多いし、山で獣を捕まえて食べることとかあると思うのだけど……よく考えたら(一応は)仏教徒だものね。肉食は駄目なのかしら? 本願寺の偉い連中は普通に食っていそうだけど……。


「では、解体して見せるので覚えてくださいね」


 三ちゃんと初めて出会ったときのように解体していく私。まずは血抜きをしてー、毛皮を剥がしてー、っと。


「……おぅぇえぇぇ」


 一向一揆の中の何人かが吐き気を催していた。軟弱な野郎共である。


『というか、あなたがスプラッタなだけでは?』


 解せぬ。




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