第590話 激しい戦いだった……


 ――激しい戦いだったわね。


『最近は『一方的に絞め殺す』を激しい戦いと表現するのですか?』


 ――激しい戦いによって天が震え、大地は裂け、人々が逃げ惑ったものね。


『どれもこれもあなたの攻撃魔法のせいですね』


 ――だがしかし、最後に正義は勝つのだ!


『それだと最後にあなたが敗れ去りますね』


 ――解せぬ。


 私ほど正義で善でジャスティスな側に立つ人間はいないというのに……、なぁんて考えていると、どこからか『ピロリン♪』と音が鳴った。


【龍脈を制圧したため、近隣の龍脈使用権を得ました】


 お? ということは、あのドラゴンは龍脈の擬人化というか擬龍化だったのかしら?


『……龍脈が襲いかかってくるってどういうことなんです?』


 私に聞かれても知らんがな。


≪此奴にいいように使われる未来を避けるため、かのぉ?≫


「むしろいいように使われるくらいなら、という遠回りな自決では?」


 まるで龍脈に意志があるかのような物言いであった。……え? もしかして意志があるの? ただの魔力の通り道に? 何という新事実……。まぁたとえあったとしても私が制圧したんだから自由に使わせてもらうけど。


『そういうところです』


 こういうところらしい。







「……いや、さすがは有珠アリス様のお孫様。なんとも恐ろしい――いや、有珠アリス様の孫という表現は正しいのでしょうか? 有珠アリス様の名誉を守るという意味で」


 まるで私の祖母であること自体が名誉毀損になるかのような細川政元の言い分であった。解せぬ。


『是非も無し』


≪是非に及ばず≫


有珠アリスちゃんの名誉を守るためならしょうがないよね」


 解せぬ。


「え~っと。これはダンジョン――いえ、地下迷宮でして」


 とりあえず大阪の責任者となる政元に説明を開始した私である。


「めいきゅう、ですか?」


「大坂本願寺のせいでここの龍脈は酷く穢れてしまいまして。その穢れを魔物として出現させ、討伐することにより浄化しようと思います」


「なにやらよく分かりませんが、本願寺は相当の悪事を成したようで……。ふむ、魔物ですか。ならば陰陽師あたりに助力を願いましょうか? 生前の伝手は――おそらくもう消えておりますが、それでも交渉くらいはできるでしょう」


 陰陽師ってマジでいるんだ? こっちの世界における魔術(陰陽術)の専門家。ちょっと興味あるけど、まぁ今回は後回しにしましょうか。


「いえ、魔物は現実の武器が通じるので、必要なのは武器の扱いに慣れた者ですね」


「ほぅ、そうでありましたか。では魔物を倒すための人夫でも雇いますか。本願寺が逃げたので職を失った僧兵がおりますし。ちゃんとした仕事を与えれば、野武士や野盗に身を落とす者も減ることでしょう」


 おお、ぽんぽんと話が進むわね。やはり優秀ね政元。……いや、むしろダンジョンを作ることによって僧兵の再雇用先まで準備してみせた私が一番優秀なのでは?


『はいはい』


 ツッコミすら放棄されてしまった……。解せぬ。




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