第585話 やはりヤバい師弟


「ここは拙僧の腕前を見せる場面ですな!」


 政元新弟子がやる気満々なので、大坂の町割りは任せるとして。その前に上下水道の整備はしておきましょうか。


 今の大坂はとにかく水不足だ。不思議なことが起こって旧淀川が干上がり、新淀川となって堺の横へと流れていってしまったからね。農業用水どころか生活用水すら足りない有様なのだ。


『また他人事のように……』


 まるで私のせいで旧淀川が干上がったかのような物言いであった。解せぬ。元はと言えば大坂本願寺がすべて悪いというのに。


『そうやって人のせいにばかりしているから精神的な成長ができないんですよ?』


 マジトーンでのお説教であった。マジ解せぬ。


 まぁ、よしんば私のせいだったとしても、もう一度必要な水を流してしまえば証拠隠滅――じゃなくて、結果オーライ――でもなくて、元々何も起こらなかったことになるのではないだろうか?


『以下略』


 せめてお説教くらいは以下略しないでください。


 え~っと、まずは新淀川から大坂にまで繋がる川を作りましょうか。あまり大きな川にしてしまうと新淀川運河の水が足りなくなるから、用水に必要な分だけ。


 川に流す水量自体は少なめにするとして、洪水時の緊急放水路として川幅は大きくしておきましょうか。新淀川って淀城あたりから無理やり流路を曲げちゃったから洪水に弱いのよね。


 そしてこの用水路&緊急放水路は大坂城(予定)を守る水堀になると。


 とりあえず、攻撃魔法でいい感じに新淀川まで地面を抉ってーっと。


「おぉ! 何という威力! もうすでにご母堂を超えておりますな!」


 地面を抉った私の攻撃魔法を見て、キラキラと目を輝かせる政元であった。なんか少年っぽいな。まぁでも本気で修行して空を飛ぼうとしているあたり、最後まで少年の心を忘れなかった系の人物なのか。家格があって戦が強くて政務もできたせいで周りが巻き込まれただけで。


 あと、政元の口ぶりだと私の母親も攻撃魔法をぶっ放せる系の人だったっぽいわね。魔法のまの字もない戦国時代に。なんて傍迷惑な人であろうか。


『…………』


≪…………≫


「…………」


 お前が言うな、とばかりに無言の圧力を掛けてくるプリちゃん・玉龍・師匠であった。せめて声に出して突っ込んでくれません?


「拙僧も修行をすればあのようなことができるでしょうか?」


 ウキウキワクワクと政元が尋ねてきた。ほんとになんだか少年っぽい。


『少年というか、中二病?』


 戦国随一の怪人物に対しても容赦のないプリちゃんであった。


 しかし、攻撃魔法か。

 史実的に見て政元はそれほどの魔術師じゃなさそうだし、実際空も飛べなかったみたいだ。

 でも、保持魔力は一度死にかけると増大するというのがテンプレだし、政元は死にかけるどころか実際に死んで蘇ったし、7,000人分の魂を吸収したという経緯もある。


 というか、大坂本願寺は一応ちゃんとした魔力スポット(いわゆる龍穴)だし、龍穴に一番近い場所(つまりは地下)に安置されていた政元はたぶん大坂の魔力スポットに馴染んで・・・・いる。


 以上のことから判断すれば――攻撃魔法くらい、ぶっ放せるのでは?


「じゃあまずは初級から行ってみましょうか。リピートアフターミー」


 もちろんこの時代に英語なんて通じないだろうけど、そこは自動翻訳ヴァーセットが頑張ってくれたので政元も初級の攻撃魔法の呪文を繰り返した。


 ちゅどーん、と。


 深さ50cmほどながらも、結構な距離の地面が抉れた。ほうほう、初めてにしては及第点ね。


『いや及第点って』


≪地面を抉る威力って、普通の人類ではまず出力できんぞ?≫


「というか、初級魔法で地面を抉らせるな」


 私のあまりの教え上手さに恐れおののくプリちゃん・玉龍・師匠であった。照れるぜ。





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