第584話 この師弟はヤバそうな


「大坂ですか。拙僧が生きていた頃とはずいぶんと様変わりしましたな」


 どこかしみじみとした声の細川政元であった。今の大坂はすぐ側を流れていた淀川(正確にはもっと細かく名前が分かれているけど、面倒くさいので淀川で統一だ)が干上がっているものね。政元の認識とはズレが生じているのでしょう。


『あなたのせいですけどね』


 まるで私のせいで大坂の地が干上がり、農業も満足にできない土地になってしまったみたいな物言い、やめてもらえません?


『みたいな、ではなくて、その通りですけどね』


 まったくプリちゃんは人聞きが悪い。それではまるで私が大坂本願寺を干上がらせるためにわざと淀川の流れを変えてしまったみたいじゃない。


『はいはい』


 とうとうツッコミすら放棄されてしまった。解せぬ。


 解せぬっていると、プリちゃんとのやり取りが一段落したのを見計らったのか政元が近づいてきた。


「御師様。大坂の地、いかにしましょうか?」


 え? 私って御師様って呼ばれるの?


「拙僧の師匠なのですから、御師様と呼ぶべきかと」


 え~師匠呼ばわりは照れるというか、骨と皮だったオッサンから師匠師匠と呼ばれるのはドン引きというか……。


『人を見た目で判断してはいけません』


 中身で判断すると戦国時代を大混乱に陥れた迷惑男としか評価できませんが?


 ま、いいや。一度面倒を見ると決めたのだから、御師様呼ばわりくらいは我慢しましょう。


「大坂ですか……。『未来』においては天下の台所・一大商業都市になるんですよね」


「おお! 未来のことまでをも見通すとは! さすがは御師様ですな!」


 はっはっはっ、照れるぜ。もっと褒めなさいもっと。わたし褒められて伸びる子だから!


『伸びるというか増長するというか』


≪増長するというか調子に乗るというか≫


「そして結局大失敗するというか」


 解・せ・ぬ。


「でも、商業都市としては堺を発展させていく予定なんですよね。あとは大桟橋を作る神戸も栄えるでしょうし……。ここはそれら二つの都市とは違う発展のさせ方を目指しましょうか」


「ほうほう。興味深いですな。たしかに淀川がなくなった以上、京への物流拠点としての発展は望めませぬからな」


「でしょう? ここはベッドタウンというか消費都市として栄えさせましょうか」


「消費都市、ですか?」


「別に物資の無駄遣いをするという意味ではなくてですね。たとえば政治の中心として発展させるとか。大学を集めてしまうとか。とにかく大きな町にしたいですね。ここに来れば何かしらの仕事にありつける感じで」


「政治、ですか。それは一応京に政権がありますが?」


「あちらはあちらで好きにやればいいのでは?」


「……なるほど、あちらには公家やら何やらのしがらみがありますからな。いっそ大坂の地に都を作ってしまいましょうか。……大学というのは、大学寮のことでしょうか?」


「そうですねぇ。あるいは足利学校みたいな? 官僚の育成をする大学や士官――武将の育成などができる大学などを作りたいですね」


「いくつか作ると。ならば相応の土地を確保しなければなりませんな」


「あとは学生が寝泊まりする宿舎も一緒に」


「宿舎、ですか?」


「そうすれば地方からも優秀な人材を集めやすいですからね」


「なんとも柔軟な発想ですな。……ふむ。それではこの本願寺跡地を政務の場とするとして、周囲に大学や宿舎などを作っていき……」


「いっそのこと大坂城を作ってしまいますか」


「やはり都にするならば碁盤の目のように――」


「パリのように放射状にするという手も――」


 ふんふんふ~んと都市計画をする私と政元であった。


『また砂場遊びみたいな感覚で土地を弄ろうとする……』


 なぜか呆れられてしまったでござる。解せぬ。




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