第579話 数寄者に捕まった
本願寺をボコって一息ついたので、三ちゃんと堺でイチャイチャのんびり過ごしていると、三好長慶さんと松永久秀(久っち)がやって来た。
「帰蝶様は珍しい茶器を有しておられるとか」
ちょっとそわそわしながら松永の久っちが尋ねてきた。珍しい茶器? 三好粉引――は、まだ私のものじゃないし、わざわざ久っちが見ようとするとは思えない。
「なんでも他に類を見ない白き器であるとか」
「あー」
白磁器のことか。まぁ珍しいでしょうねこの時代だと。白磁器自体は中国から輸入されているはずだけど、あれはカオリンを使っているから青白い感じがするのだ。
対して私が持っているものはボーンチャイナ。牛の骨を使って作られていて、乳白色が特徴だ。この時代の人間からしてみれば本当に『真っ白』に見えるのでは?
久っちが少年のように目を輝かせているので
「ほぉ! これが件の――! いやぁ、いいですなぁ。これはいいものですなぁ」
ボーンチャイナを回したりひっくり返したり覗き込んだりしながら大興奮の久っちであった。いい歳をした大人が。ちょっとドン引きである。
「……ほぉ、これが数寄者というやつか」
動物園で珍獣を見つけたような目で久っちを見る三ちゃんだった。いや、うん、大興奮している今の久っちは珍獣っぽいけどね。
「ほぅ? 三郎殿も茶の湯に興味が?」
獲物を見つけたような目で三ちゃんをロックオンする久っちであった。
「う、うむ。最近は尾張でも広まってきておりましてな。織田弾正忠家を継ぐならば、たしなみ程度は学んでおかねばならぬかと考えておるのです」
「うむうむ、よい心がけですぞ。交流を深めるならば酒宴という手もありますが、酒精(アルコール)が悪さをすることもありますからな。やはり心落ち着けて会談のできる茶の湯も学ばねばならぬでしょう」
凄い勢いでまくし立てる久っちだった。久っちって茶の湯のことになると早口になるよね。
「三郎殿さえよろしければ、拙者が茶の湯の基礎を教えることもできますが、いかがです?」
そんな提案をしてくる久っち。基礎とは言うけれど、なんかそのままディープな知識を詰め込んできそうな感じだ。私だったら何かと言い訳して逃げ出すところ。
でも、三ちゃんは違ったようだ。
「ほぉ、それは有難い。是非ご教授いただければと」
対人経験が未熟で危機察知能力が鈍い――じゃなかった、器の大きい三ちゃんは久っちの暴走を受け止め、自らの知識を深める覚悟を決めたようだ。
「おお! そうと決まりましたら!」
年甲斐もなく軽い足取りで三ちゃんをどこか(たぶん茶室)へと連れて行く久っち。
取り残される形となった私と長慶さん。
「……久っち、なんだか嬉しそうですね?」
「ですなぁ。……儂は茶の湯に興味はありませんし、そちらに詳しい弟(三好実休)は基本的に阿波にいますからな。自分の知識を
「ひけらかすって」
たぶん
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