第15章 清洲城の変

第576話 第15章 プロローグ 尾張守護







 尾張。


 この国の守護である武衛――斯波義統は家来からの報告を受けていた。


「ほぅ、那古野はそこまで発展しておるか」


「ははっ、城の改築が始まってからはさらに人が集まっておりまして。そのうえ末森城へ続く道や、湊の整備も進んでおり……」


「ふぅむ、三郎といったか。『うつけ』であると聞いていたが、どうやら演技だったようじゃな」


「今までは敵となる人物と味方となる人物を見極めていたのでしょう。――しかし、斎藤道三の娘の輿入れがほぼ決まり、今川義元相手に武勇を示したことで、本格的に弾正忠家後継者として動き始めたのでしょう」


「見事なものよな。虎の子はやはり虎であったか。……我が息子も、もう少し優秀であったならば」


 小声で嘆く義統であるが、強く言うことはない。

 虎の子は虎となろう。

 しかし、義統は、自らがそこまでの『器』ではないと自覚していた。


 お飾りの守護でもいい。

 誇りや意地など、最初から持たなければいい。


 自分や家族が生き延びるためならば家臣の専横にも目をつぶるし、必要があれば乗り換え・・・・も辞さない。斯波義統はそういう男だ。


「三郎はまだ十五くらいか。弾正忠(信秀)の病も癒えた今、そろそろ乗り換えの準備をしておくか」


「では、」


「うむ。儂自ら那古野城に向かおうではないか」


 前々から希望していたとはいえ、守護である斯波義統が、家臣の家臣でしかない弾正忠家――しかも、まだ家督を継いでもいない男の城へと向かう。なんとも異常であるし、衝撃的なことである。


 ――次は弾正忠家と信長か。


 尾張の諸勢力はそう判断するだろうし、その程度の影響力くらい自分にもあると義統は理解していた。


 ゆえにこそ、織田信友らが邪魔立てしてくる可能性はある。


 だが、それも好都合。

 守護に対して叛意を示すなら、返り忠(謀反)として扱えばいい。

 むしろ義統はそれを狙っていたし、それをして信友を排除するには今川義元にすら勝利した弾正忠家と信長の力が必要であった。


「まずは那古野に向かい、三郎と接触せよ」


「御意に」



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