第556話 帰蝶さんは理(ことわり)側の人間なので……


「おっと、忘れるところでした。つまり、政元さんは反魂の術を使っていないのですね?」


「我が師に対してどうして嘘をつくことができましょうか。……それに、お恥ずかしい話ですが、拙僧にはそこまでの力はありませぬ」


「ふ~ん」


 元々はそうだったかもしれないけど、今は7,000を超える魂を吸収したのだからそれなりの術者になっていてもおかしくはないのよね。魂を『力』に変換できたかどうかは微妙だけど、『器』は広がっただろうし。


 まぁでも、それはあくまで復活後のこと。生前にそれほどの力がなかったと言うのなら、そうなのでしょう。


 さて、どうしましょう?


 ノリと勢いで弟子にしちゃったけど……本来であれば世界のことわりから外れた存在は消滅させなければならない。


 でも、それは本人が世界の理を狂わせた場合。これ以上の被害拡大を防ぐための予防的措置だ。


 しかし本人は生き返りではなく空を飛ぶことだけを望んでいて。勝手に死体を使われ、反魂の術を施された、いわば被害者。これは犯罪被害者救済法(?)が適用されるのでは?


 というか。

 7,000もの魂を注ぎ込んで復活した存在とか興味深い観察対象――ごほんごほん。錬金術士として絶対に逃したくない――げふんげふん。一度師匠として弟子に取ったのだから! ここは守ってあげないといけないでしょう!


下衆げす


 解す。


 まぁとにかく。政元さんが反魂の術を使ったのではないとして。いったい誰が使ったのかなぁと私が考えていると、


「師よ。弟子に対して『政元さん』という呼び方はいかがなものかと」


 出来の悪い生徒を見るような目を向けられてしまった。我、師匠ぞ?


 というかそれは今する話? 私ってば結構真面目な質問をしていたんだけど?


『あなたがどうやっても真面目に見えないだけでは?』


 私ほど生真面目で実直で四角四面な美少女はいないというのに。解せぬ。


「……これはこれは」


 政元さんがプリちゃんの姿をじっと見つめ、しばらくしてから頭を下げた。神秘的な存在に対する礼儀かしら?


 プリちゃんの姿は基本的に不可視であり、聖人級の才能を持っているとか、実直な修行をし続けた人くらいにしか見えないのだけど……そんなプリちゃんを認識できるのだから、こと修行に対する政元さんの態度に嘘はないのでしょう。

 いや、7,000人分の魂を受け入れて『器』が広がったおかげで見えるようになっただけかもしれないけど。


「失礼では御座いますが、名をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


『……プリニウスです』


「プリニウス……。なぜそのような名を名乗っているのかは存じ上げませぬが、死してなお・・・・・現世に留まるとはさすがの一言で御座います」


 ちょっと。

 プリちゃんの大親友、いや、そんな表現ではもはや足りぬす~ぱ~親友である私が知らない情報をサラッと出すのは止めてくれないかしら?


『えぇ……?』


 不満げな声を上げるプリちゃんであった。きっとこの(元)ミイラ男が色々知っていそうな雰囲気を醸し出しているのが不満であるに違いない。


 ……私のすぅぱぁ親友扱いされるのが嫌なわけじゃ、ないわよね?





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