第555話 空を飛びたい女がいました


「弟子と言われましても……私、弟子を取ったことってないんですよね」


 妹弟子ならいて、師匠の代わりに色々教えたことはあるけど……。


「おぉ! では拙僧が一番弟子となりますか!」


 もう弟子入り確定で話を進めようとするの、やめてもらえません?


 え~? どうしようこれ?

 まさか、師匠、これを見越して付いてこなかったとか? 師匠がいれば何だかんだと押しつけられたのに……。


『自分の師匠に厄介ごとを押しつけないでください』


 可愛い弟子の言うことを聞くのは師匠の使命なのでは?


『自分で可愛いとか(笑)』


 鼻で笑われてしまった。美少女が自分のことを美少女と言って何が悪いというのか。


 むぅ、ここで断ったとしても、何だかんだで付いてきそうだなぁ。

 それに、おそらくこの世界で唯一、伝説以外での死者蘇生カルぺ・ディエム成功例。放っておいても時間経過で土に帰ることはなさそう。これは弟子にして近くに置いて監視しなきゃいけない展開では?


 面倒くささと使命を天秤に掛けると、使命の方に天秤が傾きそう。これはもう諦めるしかないとして……。その前に、一つ確かめないとね。


「――細川右京大夫政元。あなたが死者蘇生カルぺ・ディエムの術式を使ったのですか?」


「かるぺ……何ですと?」


「この世界で言えば反魂の術ですか」


「反魂……いえ、拙僧にはそこまでの力は御座いません。最後の力を振り絞り、天狗となることを望みはしましたが」


 天狗?


『細川政元は天狗の話を聞き、自分も空を飛びたいと願い、怪しげな修行にのめり込んでいったという説もありますし』


 そこまでして空を飛びたいんかい……と、馬鹿にする気にはなれなかった。



 ――私には、そこへと至る翼がなかった。



 私だって、かつては死ぬほど・・・・空を飛びたかった・・・・・・・・のだから。


 空を飛びたいという男がいるのなら。


 空を飛びたかった女が教えてあげましょう。


「――空を飛ぶためなら、何でもしますか?」


 私からの問いかけに、


「えぇ。何でもいたしましょう」


 彼は迷うことなく答えてみせた。


「空を飛べたあとは、何をしたいですか?」


「……正直申しまして、分かりませぬ。拙僧、空を飛ぶことだけを考えてきましたので」


「正直でよろしい。その正直さに免じて、――あなたを私の弟子にしましょう」


「おぉ! 真で御座いますか!? よもや親子孫三代にわたって教えを受けることができようとは!」


 政元さんは喜び勇んで頭を垂れ、


『……あ~あ、また世界がひどいことになりますね……』


 すべてを諦めたようにため息をつくプリちゃんであった。




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