第547話 悪巧み?


 三好長慶さんとの交渉も終わったので、後々兵庫に向かうとして。まずは堺でやるべきことをやってしまいましょうか。


 改めて今井宗久さんの元を訪れると、彼は私たちを堺の外に案内してくれた。あの大洪水のあと、更地を買い集めたのだ。


 事前に牧草を生やしておいたその土地では数多くの馬が飼育されていた。もちろん馬に擬態したモンスターではなく、普通の在来馬。

 前々から馬の買い集めを頼んでおいた結果、それなりの数になったらしい。200頭くらいいるかしら?


「帰蝶様のご指示通り、毎日鉄砲を放ち、音に慣れさせております」


「うんうん、これからは鉄砲の音に驚いていては戦になりませんからね」


「それと、船に乗せる訓練も開始しております」


「ほうほう」


 いずれ海を使っての大量輸送や揚陸艦の運用も視野に入れているからね。これも前々から頼んでおいたものだ。


「どんな感じです?」


「今でも川船に乗せるくらいならば平気でしょう。肝心の海の上ですが……やはり大人しい気性のものはすぐに慣れますな。しかし、そういう馬はのんびりしているので戦で使えるかというと……」


「あー……」


 やっぱり戦場を駆け回るなら気性が荒いものの方がいいのかしら? まぁ騎馬突撃をさせるなら荒い方がいいわよねきっと。


 ちなみに日本の馬は去勢をしないので気性がとても荒かったらしい。これは世界的に見ても特異なことで、戦場で戦う分にはいいのだろうけど……乗りこなせる人も少なくなってしまうからね。本格的な鉄砲騎馬隊を作るなら去勢もしなきゃでしょう。


 ま、それは追い追い検討するとして。

 私は一緒に付いてきてくれた長尾景虎さんと小島弥太郎君を振り返った。


「急で申し訳ないですけど、ちょっとこの馬たちを鍛えてくれません?」


「あら、騎馬隊でも編成するのかしら?」


「えぇ、いずれは。なので、最低限でもいいのでとりあえず戦に使えるくらいに」


「それはいいけど……乗り手はいるのかしら? 足軽(傭兵)を雇うにしても、馬に乗れる人は少ないわよ?」


 鍛えるときには景虎さんたちが順番に馬を乗り換えればいいけど、戦場では一頭に一人乗り手がいないといけないからね。


 傭兵は基本的に歩兵。中には馬に乗れる人もいるかもしれないけど、戦場で自在に馬を操り、時には突撃を敢行できる人材なんて望むべくもない。


 元々武士だった人が牢人になったというパターンなら馬にも乗れるだろうけど……そんな人は少ないし、必然的に雇い賃も高くなる。


 まぁ、でも。


「人についてはたぶん大丈夫ですよ」


 私が気楽に答えると、景虎さんは胡散臭いものを見るような半眼を作った。


「……ふぅん? あなたが『たぶん』と言うってことは、もうそれなりの算段は付いているってことね?」


 ちょっと、短い付き合いなのに私への理解度が高くありません? ……じゃなかった、そんな私がすべて計算尽くみたいな物言い、やめてもらえません?


『まぁ、あなたは割と計算高いですが』


≪それ以上にポンコツじゃからなぁ≫


「もう少し考えて行動しましょう」


 なぜか三連ツッコミを喰らってしまった。解せぬ。





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