第544話 この主人公、金のことしか考えてない


「おっと、大桟橋といえば」


 何かを思い出したかのように「ぽんっ」と手を叩く三好長慶さん。


「帰蝶殿。あの大桟橋、兵庫に作っていただくことは可能ですか?」


「兵庫、ですか……」


「難しいですか?」


「兵庫が発展してしまうと瀬戸内海を通ってくる荷物がすべて兵庫に集まってしまいますし」


「ふぅむ、なるほど。帰蝶殿は堺会合衆の一員。堺の利益を最優先するのも当然ですか」


 堺というか、堺から得られる私の利益最優先ですけどね。馬鹿正直には口にしない私である。


 ……ん? よく考えてみれば。


 兵庫からも相応の収入が得られるなら、別に堺にこだわらなくてもいいのでは?


『鬼だ』


≪鬼がおる≫


「あんなに色々巻き込んでおきながら……」


 いずれすべての港湾は三ちゃんのものになり、つまりは夫婦の共有財産で私のものになり、ゆえにこそ権利の前借り行使をしようとしているだけなのに。解せぬ。


『ひでぇ理屈だ』


≪理屈にすらなってねぇ……≫


 口調が乱れておりますわよプリ様と玉龍様?


「そうですねぇ。内容次第では協力するのもやぶさかではないと言いますか」


 アイテムボックスから算盤を取りだし、パチパチと弾く私。大桟橋一つ作るのに必要と思われる資材費とー、人件費とー、堺での商売に対する補填金でー、だいたいこのくらいのご予算となりますが?


「ほっほ」


 あまりにもデカい値段であるせいか変な笑いをする三好長慶さんだった。


「……銭については分割での支払いは可能でしょうか?」


「分割、と言いますと?」


「たとえば支払いを五回に分け、一年に一度支払うようにする、など」


「へぇ?」


 なんとも面白い発想に口を緩めてしまう私だった。いや『現代人』からしてみれば普通の考えだけど、そんな概念のないこの時代に、そんな思いつきをしてみせた長慶さんという人物が面白くてしょうがなかったのだ。


「面白いですが、それはこちらの危険度リスクばかり高くなってしまいますね。分割にするなら何か価値あるものを質としてこちらに預けるか、一括払いより少し多めに払っていただきませんと」


「ふむ、それも道理ですか……」


 私がパチパチと算盤を動かし、「いやいやそれは」と長慶さんが弾き直す。「ここはもうちょっと」、「そこをなんとか……」というやり取りを繰り返したあと……無料で作る代わりに、所有権は私のもの。儲けの五割を税金として長慶さんに納めるという形で決着したのだった。



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