第542話 やめて、久っちのライフは以下略


「と、殿! いきなりそれは、あまりにも――!」


 久っちがアワアワと慌てている。私がもう三ちゃんと婚約済みだって誰かから聞いたのかしら?

 ……主君が私と結婚するのが嫌だという意味の慌て方じゃ、ないわよね?


『まぁ、主君の奥さんがコレ・・とか嫌でしょうねぇ』


≪是非も無し≫


「是非に及ばず」


 解せぬ。


 まぁでも私って美少女だし? すごい魔法使いだし? 美濃の実質的な支配者の娘で、しかも足利将軍家の血を引いているともなれば引く手あまたよね! そりゃあもう征夷大将軍や未来の天下人から請われても仕方ないというか! やめて! 私をめぐって戦うなんて!


『うわぁ』


≪うわぁ≫


「うわぁ」


 せめてツッコミしてくれません?


 まぁでも、私の『力』目当てで求婚してきた足利義輝君よりはだいぶマシよね。いや『足利の血を引いている』と知ってからの求婚はちょっとマイナスポイントかもだけど、実際は日本横断運河で興味を引かれたって感じだし。


 だからこそ義輝君相手みたいに言葉の刃でズバッと切り捨てるような真似はしない。


 ただまぁ、ちょっと遅かったのよね。


「お誘いは嬉しいですが……私はもう婚約済みなんですよね」


「ほぉ、そうでしたか。これは失礼をば。……ふむ、親に決められて仕方なく、というわけではないでしょうな」


 ちょっと、「コイツが親の言うこと聞くわけねぇよなぁ」みたいな物言い、やめてもらえません?


『是非も無し』


≪是非に及ばず≫


「仕方ない」


 五・七・五で批判しないでもらえません? 解せぬ。


「帰蝶殿が『夫』と認めるとは、よほどの人物なのでしょうな」


「えぇ。いずれは世界を制する御方です」


「世界……。それは、天下を取るという意味ではなく?」


「さらに大きく。さらに壮大に。いずれは日之本を飛び出すでしょう」


「ほぉ、大言壮語にしか思えぬことをそこまで断言するとは……。夫殿の名を伺ってもよろしいですか?」


「織田三郎信長です」


「織田三郎……。いつかお会いしたものですなぁ」


「いずれ、会えますよ」


「……不思議ですな。帰蝶殿に言われると、本当に起こりそうな気がしてきます」


「英雄は英雄を知る。ならば、いずれ出会うのが『運命』でしょう」


「三国志でしたかな。ふむ、できるならば味方として出会いたいものです」


「えぇ、そうですね」


 ははは、くすくすと笑いあう長慶さんと私だった。



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