第528話 大敵というか天敵というか


 淀城防衛戦は小康状態というか、千日手というか、ぐだぐだになってきた。


 いやこちらとしては補給も万全、兵器もたっぷり、死者もゼロでケガ人もゼロにしたから士気もうなぎ登りなのだけど、城の外に出て逆襲するだけの兵力はないからね。どうしても受け身になってしまうのだ。


『容赦なく大砲やらロケット弾やらを打ち込み続ける『受け身』って何ですか?』


 新時代の籠城戦です。一向一揆には新たなる時代の礎になってもらいましょう。BGMは防人〇歌byさだ〇さしで。山も海も皆殺しじゃー。


『あなたは冗談じゃなく山も海も殺せるのだから止めてください』


 山はとにかく、海はさすがに殺せんわ。……いや、地球上の海水全部干上がらせるか表面全部凍らせてしまえば『死んだ』判定取れるかしら?


『止めてください』


 プリちゃんから止められてしまった。そもそも意味もなく干上がらせたり凍らせたりはしないっちゅーねん(意味があった場合の対応についてはノーコメントである)


 さて。一向一揆がこの地に来てからしばらく経つけど、状況はどうかしら?


 まずは河童さんが報告してくれる。


『新淀川を通る船のうち、堺の印があるもの以外はことごとく沈めております』


 ほうほう、さすがは河童さん。水上戦というか水中戦をやらせたら右に出るものはいないわね。


『最近は船の往来もめっきり少なくなりましたから、おそらく噂が広まっているのでしょう』


 その件については百地三太夫さんが報告をしてくれた。


「飢えた一向一揆が見境なく船を襲い沈めているという噂は順調に広まっております。堺以外の商人につきましては、もはや淀川を使って輸送をしようとする者はほとんどおりません。……一部、だからこそ儲けに走り船を出す愚か者もおりますが……河童殿の餌食となっております」


 まぁ、堺というか大坂湾からの物資が滞っているものね。京都あたりではあらゆるものが値上がりしているのでしょう。船が使えないと輸送効率がガタ落ちだし。そんな状況だからこそ一攫千金を狙って船を出す人もいると。


「堺の商人たちには事情を話しておりますが、それでも一向一揆のただ中を遡上することになりますから。堺の商人につきましても二の足を踏んでいる状況です」


 それはちょっと予想外だったわね。淀川は広いから真ん中を航行すればそれほど危険はなさそうなのだけど……。弓矢なら盾で防げるし、船を出してきたら河童さんに撃退してもらえばいいだけだもの。


『武士ならともかく、商人に矢が降り注ぐ中を進めというのは酷でしょう。河童さんにしても、淀川を航行する船すべてに護衛に付けるほどの数はいないでしょうし』


 プリちゃんが呆れながらのツッコミをしてきた。私が考え無しみたいな物言いは止めていただきたい。みんな根性が足りんのだ根性が。


『……自分はできたからと部下にもそれを押しつける、典型的なブラック企業の社長的思考……』


 解せぬ。


 しかし、堺で京都への輸送を独占できると考えていたのだけど……。京都への物資か。将軍か公家あたりが文句を言ってくるかしら?


 ま、そのときは武力で黙らせればいいのだから、別にいいか。


『なんという悪役思想』


≪悪ではなく、ただの悪党ではないか?≫


「悪党じゃまだマイルドだね。極悪人とか、溢者あぶれものとか、大奸、獄道、破落戸ゴロツキ……」


 そんなバリエーション豊かに貶さないでもらえません? 私の師匠ですよね?


「奴らの補給はどうなってます?」


「はっ、本願寺の本隊は大坂湾と本願寺から陸路で少しずつ。必要量には到達せず一揆共は飢えている様子。……ですが、さすがは大坂の信徒。飢えすらも志気をくじくことには至らぬようで」


「ふぅん……」


 つまり後々の脅威を考えれば城の南側に陣取った本願寺本隊を積極的に狩った方がいいと。今後はロケット弾や大砲も南側を重点的にっていきましょうか。


『思考がもう籠城側じゃない……』


 どんな苦境に立たされても積極性を失わない! 素敵! と褒められてしまった。照れるぜ。


『素敵というか宿敵というか』


≪人類にとっての大敵というか≫


「この星にとっての天敵というか」


 どういうことやねん。




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