第14章 淀城の戦い・3
第526話 閑話 狂人
「……そうか。証如が死んだか」
その報告を受けた本願寺の実質的な指導者・蓮淳は静かに目を閉じた。
そんな彼の様子を見て、報告をした側近は奇妙な安心感を覚えた。いくら道を違えたとはいえ、証如は蓮淳の実の孫。後見人として幼い頃から面倒を見てきたのだ。彼なりに思うところはあったのだな、と。
しかし、そんな安心感は幻であったと思い知らされる。
「――都合よし。すでに顕如が法主となった以上、証如が下手に動くと面倒だからな。証如が死に、天狗も消えた。最後に祖父孝行をしてくれたものよな」
「…………、……は、まことに」
「これで懸念が二つも消えたか。あとは例の淀城とやらか」
蓮淳が別の側近に目を移すと、彼が深く頭を下げてから報告を始めた。
「頼言殿ですが、一旦力攻めは諦めたご様子で」
「ほぅ? 10万もの信者を動員しても落とせぬか?」
「はは、城からは常に稲光が走り、壁からは火を噴き、信者の死体が空を飛ぶ地獄のような光景とのこと」
「ふぅむ、
「それと、このまま力攻めをすれば信者共が里於奈様を傷つけるかもしれぬゆえ、城を囲んでの和睦を目指すとのこと」
「うむ。信者共は
「……まこと、その通りで」
お前の方が獣であろうに。と、いう思いはもちろん飲み込む側近である。
「つきましては、兵糧を送って欲しいと無心してきました。淀川が使えないので時間が掛かってしまいますが……」
「あぁ、よい。よい。慌てずともよい」
「はぁ……?」
すぐに兵糧を送らなければ信者は飢え、周りの村々から略奪をするだろう。それらの『戦利品』をめぐって信者同士で殺し合う事態にもなりかねない。……信心深い者であればそのまま飢え死にを選び極楽を目指すだろうが……。十万も集まれば、そんな狂信者は稀となる。
それが分かっているのかいないのか。蓮淳は愉快そうに自らの顎髭を撫でている。
「淀城では多くの信者が死んだか?」
「は? は、はは、すでに千を越える犠牲が出ているのではないかと」
「そうか。都合よし。都合よし」
「…………」
「…………」
愉快そうに笑う蓮淳を見て、とうとう狂ったかと顔を見合わせる側近たちであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます