第521話 やはりマムシの娘である
和睦交渉を遠見の魔術で見た結果。
……うん、筋肉ってすげぇな。
肉体美は敵味方の関係すら超越するらしい。なんと暑苦しい絵面だろう。
それはまぁ見なかったふりをすることにして。
帰ってきた根来左太仁さんに敵陣の様子を聞いてみる。やっぱり遠くから観察するよりは実際その目で見て、その雰囲気を感じた人の意見を重視しないとね。
「――あの実照という男、見事なる筋肉でありました」
それはもういいから。
「いえ、
あー、筋トレしている人に悪い人はいない理論? んなバカな。
まぁしかし話は通じそうなのでここはちょっと謀略しましょうか。
『また気軽に人を貶めようとする』
私がいつ人を貶めたというのか。私ほど素直で実直で心の白きこと大雪山に降り積もる雪のごとき美少女はいないというのに。
『マムシの娘』
その事実は強すぎるので勘弁してください。
ま、それはともかく謀略謀略♪
「敵の補給はどうでしたか?」
「潤沢なようには見えませんでした。。周囲の村から略奪をしているようですが、限度があります。2万の兵が集まっていては、早晩食い尽くしてしまうでしょう。一揆勢10万ともなれば、なおさらに」
敵は淀川の対岸に2万、その他8万ってところ。米が一気になくなるわね。
へいプリちゃん。戦国時代って1日何合くらい食べていたんだい?
『農民はよく分かりませんが、武士は1日5合程度食べていたとされていますね。戦闘中ともなれば10合食べていたとか』
食い過ぎだろ。と思うけど、この時代ってまともなオカズがないからなぁ。一汁一菜で必要カロリーを摂取しようとすれば、そのくらいの米は必要になるかしら。
え~っと、5合~10合ね。平均して1日8合食べるとして。1人当たり1.2kgか。それが10万人として、1日120トンの米が必要と。絶望的ね。商業都市堺を敵に回したこの状況でどうやって用意するのか。どうやってここまで持ってくるのか。
たとえば1頭立ての馬車だって積載量は1トン程度。それだけでも1日120頭の馬が必要になる。しかも戦国時代には馬車なんて存在せず、馬の背中に直接乗せないといけないから輸送可能量はもっと少なくなる。
馬の背中に乗せるなら米俵2俵か。この時代って1俵の重さが『現代』と違っていたんだっけ?
『この時代は各地方でも俵の大きさが違っているので……よく分かりませんね。30kgかもしれませんし、60kgかもしれません』
なんか曖昧な解説だった。
『馬で米俵を運ぶ場合は1駄――つまり、馬1頭で2俵が基準とされていました。江戸時代の話になりますが、八戸藩は1駄で7斗5升と規定されていたようですね』
1頭で運べるのが110kgくらいか。1日で必要な米を陸送するなら馬1,100頭くらい必要と。笑えるほど輸送力がないわね。やはり10万という数字に現実味はないわ。
となると船を使っての輸送となるのだけど……淀川を使った輸送は、河童さんたちに邪魔されるのでここまで届くことはない。
いくら周囲の村から略奪したところで、1日120トンの消費ではすぐに食い尽くしてしまう。
つまり、城を取り囲んだはずの一向一揆は、あっという間に飢えるしかないのだ。なんて簡単な算数でしょう。
「では、左太仁さんには超勝寺実照さんとやらと連絡を取り合ってもらいまして。――あちらが飢えるようでしたら、こちらから米を援助しましょう」
「な、なんと!? 確かに実照は見事な筋肉をしておりますが、敵同士! だというのに米を恵むと!?」
「あちらも加賀からこちらまで無理やり出陣させられたのですからね。それに、民が飢えることは私としても望みません」
「なんと……なんという御慈悲……」
感涙の涙を流しながら私に手を合わせる左太仁さんだった。
もちろん、民が飢えるなどという理由で米を渡したりはしない。
本願寺からの補給は陸から細々と。川を使ったものは(河童に船を沈められて)到着せず。周辺からの略奪もし尽くし、勝手に撤退するわけにもいかず飢えるしかない中で。『吉兆様』から食料を恵んでもらえば感謝をするでしょう。洗脳――じゃなくて、改心もさせやすくなるでしょう。
さらに言えば、城の南に陣取った本願寺の本隊も同じように飢えていく。けれど、淀川からの補給を潰された以上、彼らには本願寺からの陸路を使った細々とした補給に頼るしかない。
自分たちが飢えているのに、淀川対岸の加賀衆には飢えた様子がない。怪しく思うでしょう。不信感を抱くでしょう。
そこで、『加賀の連中は敵と通じ、敵から補給を受けている』という噂を流せば……。はい、内紛の出来上がりである。こちらは血を流さず、相手には出血を強いる。何と素晴らしい謀略でしょう。
『そういうところです』
≪そういうところじゃぞ?≫
「そういうところだと思うなぁ私」
まさかのトリプルそういうツッコミであった。解せぬ。
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