第518話 怖い人には意見とかできないよね


 なんだか中途半端なところで一向一揆は攻撃を中止。その後は城の周りに土塁を盛ったり、杭を立てたりし始めた。


 長期戦の構えね。どういうことかしら?


 敵の目論みは忍びを使って調べるとして……。長期戦か。相手が自滅・・するなら存分に利用させていただきましょうか。


 まずは淀川の対岸。ロケット弾に驚いていったんは逃亡した加賀の一向一揆に対して使者を派遣。――内緒で停戦しませんか、と。


「内緒で、停戦ですか?」


 そう疑問を口にしたのは根来の左太仁さん。なんか使者をやってくれる人を探していたら立候補してくれた。


 いや左太仁さんってここにいる根来衆の中でも偉い人だし、さすがに使者にするのはなぁ……と思ったけど、なんだか覚悟が決まりまくっているので説得は無理そうだなと諦めた私である。

 ほら、私って流されやすい気弱な美少女だから♪


『周りがことごとく流れていると、自分が流れているように見えるんですか?』


 私が周りの人間を流しまくっているみたいな物言い、やめてもらえません?


 それはともかく、左太仁さんだ。私が手ずから防御結界を張っておけば無事に帰ってこられるだろうし……あの筋肉には刃も通らなそうだし……なにより、今の左太仁さんってめっちゃマッスルで威圧感抜群だものね。相手をビビらせるという意味では適任でしょう。


 そんな左太仁さんも、今停戦する意味が分かっていなさそうだったので説明しておくことにする。使者が理解してないと後々こじれるかもしれないし。


「表だって和睦をする必要はありません。ただ、淀川の対岸の部隊が動かなければ、こちらもすべての火力を南側(本願寺本隊)に向けられますから。私たちは散発的に鉄砲を放ちますし、相手も矢を放ったり投石などをしてきます。ですが、それだけ。本気で戦わないよう約束をするのです」


「なるほど」


「向こうとしても、無理攻めしようとしても淀川を越えるだけで一苦労ですし。ロケット弾などといった訳の分からない兵器がある以上、様子を見たいはずです。そもそも彼らは加賀からやって来た人間。略奪などをして自分らの『利益』を確保できるならともかく、何も得られずに戦わなければならないとなればやる気もなくなるでしょう」


 もちろん、彼らが本願寺本隊のような『狂信者』であればこの目論みも破綻する。狂信者は無理やりにでも水堀を越えようとするだろうし、採算度外視で突っ込んでくるかもしれない。


 ま、でも、あっちの人たちの瞳には『狂気』がないし、狂信者がいたとしても一部だけ。その人たちは突撃してくるかもしれないけれど、逆にそいつらを殲滅すれば大人しくなるでしょう。


 というわけで。まずは交渉に向かってもらいましょうか。


 おっと、その前に。軽くジョブをしておきましょう。


 鉄製のかぎ爪をロープに括り付けた道具……いわゆるかぎ縄を準備。城の中から外へと投げてもらい、水堀に放り込まれた一向一揆の死体にかぎ爪を引っかけ、引き上げてもらう。そのまま放置してはいずれ水堀が埋まってしまうし、疫病も心配だからね。


 現代人・・・であればわざわざ死体を引き上げることに不快感を示しただろうけど、良くも悪くも人の死に慣れているのか城内の人たちが騒ぎ立てることはなかった。


『慣れているのではなくて、ただ単にあなたが怖くて騒げないだけの可能性』


 解せぬ。


 プリちゃんとはあとでじっくり話し合おうとして。引き上げた一向宗の死体はそのまま投石器に乗せ、発射。死体は高く高く打ち上げられ、淀川上空を通過。きりもみ・・・・状態で敵陣のただ中に落下した。


 地面に激突した衝撃で肉体は潰れ、四肢や肉片が四方八方に飛び散る。ここからではよく見えないけれど、きっとトラウマになることでしょう。


 ま、是非も無し。

 私は容赦なく指示を飛ばして、一揆勢の死体を飛ばし続けたのだった。こうしておけば厭戦気分も蔓延するでしょうし、内緒の和睦交渉もやりやすくなると。


『……ただ単にあなたが怖くて騒げないだけの可能性』


 解せぬ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る