第118話 織田の十ちゃん
「なるほど、三ちゃんの弟で勘十郎――つまりは、十ちゃんね!」
「じゅ、じゅうちゃん、ですか?」
「可愛いでしょ?」
「か、可愛い、ですか……?」
まぁ最初は山姥だと怖がられた私だけど。しばらく交流すれば『怖くない』と理解されるものなのだ。具体的に言えばなんやかんやで雑談できる程度には仲良くなった私と信勝君、改め十ちゃんである。
『主のポンコツさが恐ろしさを凌駕しましたか……』
どういうことやねん。
そんな私たちのほのぼのとしたやり取りが功を奏したのか、十ちゃんのところに集まっていた(そして私を見て逃げ出した)小鳥たちもだんだんと戻ってきた。よく見ると馴染みのない種類だ。いや小鳥なんてツバメと雀くらいしか見分けられないけどね。
『
あー、あのリアルで見るとすっげぇビックリするヤツ……。こんな小鳥がやっていたんかい。見た目だけなら可愛いのに。
『主様と一緒ですね』
私は中身も可愛いですが?
『ハッ』
鼻で笑われてしまった……。解せぬ。
『まぁ主様の滑稽さは置いておくとしまして』
滑稽って何やねん滑稽って。
『織田信勝といえば、百舌鳥を使った鷹狩りをしたと記録に残っていますね』
……百舌鳥で?
『はい』
『ですね』
あんな小鳥がウサギとか鶴とか狩っているとでも?
『詳細な記録は残っていないので細かいことは不明ですね。おそらくは蛙やトカゲといったものを狩らせていたのではないでしょうか』
まぁ、普通はそうだよねぇ小鳥だし。
『……ただ、時の帝の一団に向けて鹿が突進してきた際に、鹿が急死。その鹿の耳から百舌鳥が飛び立ったという伝説もありまして』
え? 鹿殺った? 殺っちゃった? 怖いな百舌鳥……。
「……信勝君は百舌鳥で鷹狩りをやっているのかしら?」
気になってしょうがなかったので問いかけてみた私である。だってマジで鹿を狩るかもしれないし。そんなの絶対見てみたいじゃん!
と、私としては軽い気持ちでの質問だったのだけど。なぜか信勝君は自信なさげに視線を落としてしまった。あれ失言? ってほどのことしてないわよね?
「う~む、
と、信勝君の様子を見かねたのか解説してくれる三ちゃんだった。
「そんな中で、鷹ではなく小鳥(百舌鳥)を使うというのは、どうにも見くびられることが多いらしくてな」
「ほぅほぅなるほど。解説ありがとね。三ちゃんが長文を喋れるようになっておねーさん嬉しいわ」
「……子供扱いするでない」
「あらそう? じゃあ、大人としての苦言を呈しようかしら?」
「む?」
「いくら妻相手とはいえ、他人のデリケートな問題をベラベラ喋らないの」
もちろん、戦国時代に『デリケート』なんて言葉はない。
ただ、今回の場合は
『
プリちゃんが首をかしげるのと同時、三ちゃんも首をかしげた。
「うむ……? いかんのか?」
あまり実感がないらしい。
まぁでもしょうがないか。
なにせこの子、松永久秀を『こいつは天下に名を轟かす悪事を三つも犯したんだぜ!』と他人に紹介しちゃうくらいだし。しかも、たぶん『な! すげぇ男だろ!』って善意(?)での紹介だし。
『さらに言えば『三悪』は実際にやっていないのではないかとも言われていますね。むしろ『松永久秀は忠臣だったんじゃないか説』も出てくるほどで』
やめてー。戦国浪漫を壊さないでー。久ちゃんは主家乗っ取りして将軍暗殺して大仏殿を焼くのよ! そして爆死するのよドッカーンと!
『久ちゃんって……』
久っちでも可。
『……まぁ、実年齢では主様の方が遙かに上ですしね』
やかましいわ。
私が突っ込んでいる間にも三ちゃんは難しい顔をして悩んでいたけれど、しばらくして『で、あるか』とつぶやいた。
「帰蝶が言うなら、そうなのであろうな。これからは気をつけよう。すまなかったな勘十郎」
三ちゃんから謝罪を受けて(いや頭は下げてないしむしろ胸を張っていたけどね)、勘十郎君は目玉が飛び出るんじゃないかってほど驚いていた。
「あ、あ、あの兄上が人の意見を聞き入れ、しかも謝罪した!? まさか本当に妖術を……いや、妖術程度で兄上が変わるはずがありませんか……何と恐ろしい。天変地異の前触れか? まさかもうすでに末法の世が始まって……?」
「…………」
ここまで驚かれるって、三ちゃんは今までどんな人生を送ってきたというのか。
そして実の弟からの反応を目の当たりにして三ちゃんは『であるかー……』と嘆いていた。うん、あなたはもう少し自分の生き様を見つめ直した方がいいかもね。
『信長も、主様にだけは言われたくないでしょうね』
どういうことやねん。
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