第113話 末森城


 小西隆佐君や孫一君たちは生駒家宗さんの屋敷で旅の疲れを癒やしてもらうとして。私と平手さん、明智光秀さんは馬に乗って末森城に向かうことになった。


 小高い丘の上に立つ末森城は湊から目視できたので、私としては転移魔法でさっさと移動しようと思ったのだけど、平手さんが転移魔法をなぜか全力で拒否したので馬での小旅行となった。


『……話を聞きますに、空中に放り投げ出されたあと贈答品の数々が頭上に降ってきたらしいですし、全力拒否されても仕方ないのでは?』


 ちょーっとだけ失敗しただけなのに。解せぬ。


『あなたの『ちょっと』は一般人からしたら天地崩壊レベルですからね?』


 どういうことやねん。


 そんなわけで平手さんが用意してくれたお馬さんに乗っての移動である。馬車を使っても良かったけど、たまには乗らないと鈍りそうだったので私も一人で馬に乗ることにした。ちゃんと(前の世界で使っていた)乗馬用のズボンに着替えてね。


 と、魔法で早着替えをしてみると、なにやら平手さんが私から目を逸らし、光秀さんは『な、な、な……っ!?』と愕然としていた。うん? なんだいその反応は?



『……乗馬用ズボンは肌に張り付くような構造ですからね。高貴な女性が足を晒す文化のない戦国時代では刺激が強すぎるでしょう』



 つまり気づかぬうちに悩殺してしまったと? いや~ん、まいっちんぐ~。



ふっるっ』



 ツッコミの切れ味が抜群すぎである。


「帰蝶! いくら馬に乗るとはいえ、そんな服はいかん!」


 光秀さんに両肩を掴まれガクガク揺さぶられてしまう私であった。このお兄ちゃんいとこ、心配性である。


「……そこまで反対されてはしょうがないですね。ここはやはり転移魔法で末森城まで移動しましょう!」


 そもそも私はさっさと三ちゃんに会いたいのだ。馬でぱかぱか移動なんてしていられるかいな。


「え? 待ってくだされ――」


 平手さんの言葉が終わらないうちに転移魔法を発動。一気に末森城近くまで移動した私たちであった。





「……おぉ、地面がある……地に足が付いている……」


 なんか宇宙から帰ってきた人みたいなことをのたまう平手さんだった。


『そろそろストレスで胃に穴が空くのでは?』


 穴が空いたら回復魔法で治せばいいのだ。


『よくないですね』


 よくないらしい。まぁそうだよね。


 お詫び代わりに鑑定眼アプレイゼルで鑑定してから胃に回復魔法を――おや? 病巣発見。まだ小さいけれど厄介な進行性のヤツ。


 初対面の時には見つけられなかったから、長旅の疲れで免疫力が下がって――って感じかしら?



『どちらかというと信長と主様からのダブル・ストレスが効いたのでは?』



 こんな美少女が近くにいるのだからむしろストレス軽減されるのでは?


『そういうところです』


 こういうところらしい。解せぬ。


 ……ん? でも、胃の病気ということは、自分で腹を切り裂いて病床摘出、『これが儂を苦しめていたのか……』と言い残して息絶えるフラグなのでは? 何という平手政秀切腹新説。さっそく学会(?)に発表しなくては!


『そんなどっかの丹羽さんじゃないんですから……』


 まぁ学会はともかくとして。今までのお詫び&これからのご迷惑のフライング謝罪を込めて胃の病気を治してあげた私である。


『……前もって謝罪するくらいなら迷惑を掛けないよう努力しなさい』


 プリちゃんの苦言は理解できなかった。不思議なこともあるものだ。





 さすがの私もいきなり城内に転移しないくらいの常識はある。というわけで、転移した末森城近くの道から城門を目指して歩いていると――こちらに向けて馬が一頭駆けてきた。


 見間違えるはずがない。幾星霜ぶりの三ちゃん登場である。


『たかだか数日で大げさな……』


 大げさじゃありませーん。愛の力(?)なんでーす。


 私たちの近くまで来た三ちゃんは、馬を完全に止めることすらせぬまま慌てて降り、ずかずかとした足取りで私に近づいてきた。鬼気迫る表情で。


 これは……あれね! 久しぶりの再会を三ちゃんも待ちきれなかったと!


『いやあんな鬼気迫る表情を向けられてなぜそんな思考ができるんです? ポンコツ過ぎでしょ……』


 解せぬ。


 私が首をかしげていると三ちゃんは、なんと、上着(小袖)を脱いで鍛えあげられた上半身を露わにした。


 だ、ダメよ三ちゃん! は・じ・め・て♪ を野外で済ませるなんて!


『ポンコツ』


 解せぬ。


 プリちゃんに突っ込まれていると三ちゃんは脱いだ上着を私の腰に回し、縛って固定した。『腰巻姿』のように。乗馬用ズボンを隠すように。


 そして私の両肩を掴んでガクガク揺さぶってくる三ちゃん。光秀さんそっくりな反応である。


「帰蝶! そんな無恥な格好をしてはいかん! いかんぞ!」


「……いやぁ、『かぶきもの』な格好で町中を練り歩いている三ちゃんにだけは言われたくないんだけど? ねぇ? 人の肩にぶら下がりながら柿を食っちゃう織田三郎信長くん?」


「……い、今はもうそんなことはしておらん」


 視線を泳がす三ちゃんだった。心当たりがありすぎて反論できないらしい。


 と、泳いでいた三ちゃんの目が光秀さんと平手さんを捉えた。


「……おぬしら、帰蝶の足を見たのか?」


 刀の鯉口を着る三ちゃんと、ブンブン首を横に振る光秀さん&平手さん。はいはい八つ当たりしないのー。



『八つ当たりというか嫉妬というか……いや八つ当たりですかね?』



 首をかしげるプリちゃん(光の球だけど以下略)だった。


 まぁ三ちゃんを嫉妬させる趣味はないので魔法を使って普段のローブ姿になる私であった。

 結局馬には乗らなかったわね。






「そういえば、ずいぶん早いお出迎えだったわね。事前に連絡が来たわけじゃないでしょう?」


「あぁ、物見が『急に山姥が現れました!』と報告してきたのでな。帰蝶であろうと馬を走らせたのよ」


「誰が山姥やねん……」


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