第112話 おめでとう、平手はスルースキルをゲットし(ry
――なにやら『師匠』の絶叫が聞こえた気がする。
いや、気のせいでしょう。いくら非常識に羽根が生えたような師匠でも異世界にまで声を届かせることはできないのだから。
私が自分を納得させていると、プリちゃんが深々と、それはもう深々とため息をついた。
『……主様って異世界転移の術式を紙に書いて、私に見せてくれましたよね?』
え? うん、そうだね。術式にヤバいところがないかプリちゃんに確認してもらいたかったし。
『……その、術式を書いた紙。元の世界に置きっ放しなのでは? あの師匠さんなら術式さえあれば異世界転移くらいできるのでは?』
あ。
やば。
…………。
あはは~、やだなぁプリちゃん。そういうのを『フラグ立て』って言うのよ? それに、いくらあの師匠がお酒好きだからって、お酒のために異世界転移してくることはないでしょう。
なにせあの人は(信じがたいことに)元の世界における神の一柱。いくら多神教の世界とはいえ、そう簡単に異世界にお引っ越しできるわけないじゃない。
『……まぁ、確かに。あの
なんだか『主様にはギリギリの常識すらありませんけどね?』と批難されているような気がするぞー?
『ただまぁ、ギリギリの常識すらない主様のために異世界転移してくる可能性は十分あるかと』
真っ正面から批難されてしまった。私にだってギリギリの常識くらいあるわい。いやギリギリってなんやねん。セーフティーゾーンは十二分に確保してるわよ。具体的にはプリちゃんから物理的なツッコミをされない程度の。
プリちゃんは可能性があると言うけれど、さすがに師匠でも『要』としての自覚はあるから大丈夫だいじょーぶ。
たぶん。
きっと。
おそらくは。
◇
とにもかくにも。雑賀の里から尾張まで船で移動した私たちである。
ちなみに妊婦や一般人が乗っているので、船を高速移動させつつまったく揺らさないという器用なことをしてみた。おかげさまで船酔いゼロという快挙達成。プリちゃんは褒めてくれてもいいのよ?
『……堺に行くときもこうしてあげるべきだったのでは?』
おかげで雑賀の里に寄り道できて、私は弟をゲットできたのだから結果オーライである。
『弟とはゲットするものでは無いと思いますが……』
チャンスは
『ショタコン』
解せぬ。
そんなやり取りをしているうちに尾張の港に着いたので、船から下りる。このあとは川舟に乗り換えて美濃まで遡上だ。那古野城が見えたらちょっと寄り道しましょうかね。
と、これからの大雑把な予定を立てていると、船着き場で見慣れた人物を発見した。平手政秀さんだ。私たちを歓迎するように両手を振っている。
「帰蝶様! お久しぶりでございます!」
久しぶりと言っても数日しか経っていないけど、まぁ定型文は大切である。
「はい、お久しぶりですね。今日は湊でお仕事ですか?」
「いえ、信秀様の命により、帰蝶様をお待ちしておりました」
「お義父様の?」
『……いやごく自然に『義父』扱いするの止めてもらえません? 尾張の虎ですよ?』
そのうち結婚するのだから、別にいいのでは?
『気が早すぎる……』
こういうのは早い方がいいのだ早い方が。結婚とは家と家がするものなのだ。結婚したことないからよく知らんけど。
平手さんによると他の人と交代で私を待っていたそうなのだけど、異常なまでに『スーッ』と揺れることもなく湊に入ってきた船があったので『あ、帰蝶様だな』だと察して近づいてきたらしい。
「ははぁ、お義父様――じゃなくて織田信秀様が末森城で待っていると?」
「はい。突然の申し出で大変恐縮なのですが、末森城まで足をお運びいただけると……」
「……ちゃんとした服なんて持ってきてないですけど、いいですか?」
「急な申し出ですし、公式な場でもありませぬので、構いませぬ」
今の私は旅装というか、動きやすさ重視で前の世界の服を着ている。ブラウスっぽい上着に、ロングスカート。国家公認魔導師の証であるローブ(金糸の刺繍入り)。南蛮人の服に見えないことも……ない、かな?
『この当時の南蛮人の服装は……有名なものでは宣教師の帽子、ラッフル、カパ、トランクフォーゼという組み合わせですか。まぁ、似ていると言えば似ていますが、違うといえば違いますね。そもそもまだ宣教師も来日していませんけれど』
プリちゃんの話を聞いているのを『無言で悩んでいる』と勘違いしたのか平手さんが一つ提案してきた。
「ご希望であればこちらで礼服を用意することも可能ですが」
そりゃあ和服なら多少のサイズ違いも大丈夫でしょうけど……。え? この時代の女性の礼服ってアレでしょ? こっちの世界に来たばかりの頃何度か着せられたあのメッチャ動きづらい和服。
うん、断固拒否します。服なんて動きやすさを最重視するべきで見た目など二の次でいいのだ。
『……信長は着飾らせたくせに』
イケメン少年は着飾らせなければなりません。人類としての義務です。
『そんな人類、滅んだ方がいいのでは?』
やはりプリちゃんこそ第六天魔王なのでは?
冗談はともかく、あんな動きにくい服を着せられるなど冗談にもならない。
「平手さん、決めました。これは母の国の礼服です。そういうことにしておいてください」
くるりとその場で一周しながら宣言した私である。
「…………、……えぇ、そうですな。そういたしましょう」
なにやら万感の思いを飲み込んだような『えぇ、そうですな』だった。
『平手政秀もスルースキルを獲得しましたか。これなら
どうやら私は知らぬ間に未来の悲劇を回避していたらしい。さすが私である。
『この主、皮肉が通じない……』
こんな話の通じる
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