第78話 米革命
『ほんと、主様って他人の運命を狂わせるのが好きですよね』
人聞きが悪すぎるプリちゃんだった。私がいつどこで人の運命を狂わせたというのか。
『そういうところです』
こういうところらしい。
まぁとにかく、当初の目的である鉄砲鍛冶さんはスカウトできた(色々準備があるため、美濃にやってくるのはまた後日になるそうだ)ので、その他のものも調達しておくことにする。
具体的には前もって用意してもらった銅鉱石。あとは堺にあるだけの鉛。そして米。さらに米。とにかく米だ。堺なんだから白米くらいあるでしょうきっと。そもそも私が異世界にやって来た目的の99割は米と醤油と味噌のためなのだから。
『……そこはせめて『世界平和のため』とかにしておきません?』
私は人類の未来と世界の平和を守るため戦国時代へとやって来たのだ!
『うわぁ、胡散臭い』
自分で要求したくせに!?
突っ込んでいる間に宗久さんに案内してもらってお米屋さんに到着。まぁ店舗というよりは土塗り壁の倉庫――土倉って感じだけど。どうやらまた私が大量買い付けするだろうと見越して問屋(?)に連れてきてくれたらしい。
『米屋とは少し違うでしょうが、『土倉』は種籾を貸し付け、来年の秋に利子付きで返してもらうという
あー、歴史の授業で習ったことがあるような?
『最初は種籾だけの貸し付けだったのが、後には銭を貸し出す金融業に発展したのだとか』
ほほぅ? なるほど、錬金術で生み出した金を元手に金融業に進出してボロ儲けしろと? プリちゃんも悪よのぉ。
『一緒にするな』
あいすみません。
謝っていると土倉の店主らしき人がすすす、っと寄ってきた。どうやら宗久さんから話は通っているらしく、すぐに土倉の中に案内してくれる。
うん、『宗久殿の紹介なら金持ちだろう』という期待が顔に書いてある。気がする。
店主さんがいかにも人好きしそうな笑顔を向けてくる。
「帰蝶様、本日はどのような米をご入り用で?」
「そうですね、全種類ください」
「ぜ、全種類ですか?」
「はい。品種改良するのでなるべく色々な種類の米が欲しいのです」
この世界に来てからまだお米の収穫は見ていないけど、プリちゃんによるとこの時代の稲って背が高いみたいだからね。背が高いと倒れやすいし、下の方が光合成しにくいし、稲自体の成長に栄養が取られて良い実ができないのだ。
『なんでそんな稲作に詳しいんですかね?』
そりゃあ私が平均的で平々凡々な元日本人だからですよ?
『……はっ』
鼻で笑われてしまった。解せぬ。
「ひ、品種改良、ですか?」
首をかしげる店主さんだった。あれもしかして品種改良って概念がない?
『偶然に頼った品種の選別や経験に頼った掛け合わせくらいなら行われていたようですが、それが技術として確立したのは明治時代だと言われていますね』
つまりこの時代に『品種改良』と言ってもピンとこないと。
「え~っとですね。母の生国では人の手で色々な品種を掛け合わせて、多く実がなる品種を作ったり、病気に強い品種を作ったり、食味が良くなるものを作ったりしていたそうなのです。それをやってみようかと」
「「……ほぅほぅ」」
ずいっと身を乗り出してくる店主さんと宗久さんだった。金の臭いをかぎつけたらしい。
「今より多く実がなるならば収穫量が増えますなぁ」
「食味が良くなればより高値で売れますなぁ」
「なんとも夢がありますなぁ」
「期待してしまいますなぁ」
「……ここは手前が米の代金を出しましょう」
「……今ここにない品種も取り寄せましょう」
だから良い品種ができたらこちらに回してくれ。宗久さんと店主さんは目でそう語りかけてきた。
「あ、はぁ……とりあえず稲作から始めますので、籾殻付きのものをくれますか?」
「へい、すぐに用意しますので少々お待ちください」
嬉々とした足取りで土倉の奥へと引っ込んでいく店主さんだった。
う~ん、ここまで期待されると私もちょっと頑張らないとかしら? 魔法で成長を早めれば一年で何度も試行錯誤できることだし。背が低くて実つきが良くて冷害に強く病気にも強いおいしい品種もすぐに作れるでしょうきっと。
『……あなた世界に革命を起こす趣味でもあるんですか?』
趣味:革命ってどんな危険人物やねん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます