第20話 いっぱい集まった


 とりあえず、片足の太助さんは城下町の屋敷に住んでもらうことにした。治癒術の授業をしているあのデカい屋敷ね。


 授業で使わないときにはずっと空き家になっているのが気になっていたんだよね。盗まれるようなものはないけど、泥棒に入られたら気分が悪いもの。


 ……と、いうのは太助さんに住処を提供する言い訳だったりする。だって屋敷の護衛だけなら給料いらず・休憩いらずのゴーレムさんに任せればいいだけだし。

 魔石を“核”にすれば作成時以外に魔力を消費することもないし、そこらの盗賊には負けない強さもある。


 まぁとにかく太助さんにはしばらく警備員と管理人という形で屋敷に住んでもらうことになった。

 美濃の石工に注文した薬研(薬草をすりつぶしたり粉にしたりする道具)が届いたら漢方薬の作り方を教え込んでみようかな。あれ、意外と力仕事なんだよね。


 このまま警備員をやってもらうにしろ、薬を作ってもらうにしろ、片足がないままでは不便だろう。

 さすがの私も失われた足を生やすのは難しい(できないとは言っていない)ので、義足を作ってみることにする。


 基本的な知識はプリちゃんから教えてもらえるとはいえそれを形にする技術はないので光秀さんや護衛の人たちに職人さんを紹介してもらった。


 切断部と義足を繋ぐ『ソケット』部分は鎧作りの職人さんに。義足部分は頑丈さと軽さを考えて竹細工の職人さんに協力してもらうことにした。


 鎧の頬当ては結構複雑な形状かつ頬と顎にくっつくように作られているからソケットの形も再現できそうだし、前世で竹を使った義足の記事を読んだことがあるのでたぶん何とかなるだろう。





 フローレンス・ナイチンゲールは偉大な人だ。

 彼女は衛生管理を徹底し、一時期は42%にまで上昇した兵舎病院の死亡率を5%にまで低下させた。彼女がいたからこそ戦場から生きて帰れる人間が増えたのだ。尊敬しかできない。


 ただし、問題がないわけではなかった。

 生還者が増えるということは、恩給(障害年金)の対象者が増えるわけで。その分国家の財政は圧迫されてしまうのだ。


 まぁ何が言いたいかというと、私は財政担当者の気持ちが痛いほどよく分かっていた。


 今。屋敷の庭には十数人の男性が集まっていた。片腕がなかったり片足を失っていたり。中には両足を逸失している人もいた。一見すると四肢が健在の人でも腕を動かしづらそうにしていたりする。


「Hey, 光秀さん。彼らは一体どうしたんだい?」


「へ、へい……? もちろん、帰蝶の噂を聞きつけて集まってきた戦傷者たちだ」


「多くない? そして早くない?」


「多くはないし早くもない。今日だからまだこの程度で済んでいるのだ。日が経つにつれ集まってくる人間は増え続けるだろう」


「なるほど、つまり早急にお金儲け生活の保障をしなきゃいけない、と」


「……今ならまだ追い返すこともできるが?」


「光秀さんが何を言っているか理解できないナー。日本語って難しいですネー」


 胡散臭い外国人のように肩をすくめていると光秀さんが諦めたようにため息をついた。ストレスをため込んで本能寺を起こされても困るので今度肩でも揉んであげよう。


 それはまぁ今夜にでもやるとして。手元に残った永楽銭を護衛の一人に持たせ、津やさんへの使者をお願いした。とりあえず数日分のご飯をお願いしよう。





 その日の夜。

 父様に呼び出された私は簡単に状況を説明した。


「やはり私の抑えきれない魅力が彼らを引き寄せてしまったのではないかと」


「うむ、帰蝶の魅力であれば致し方なし、か」


 側で控えていた光秀さんが『この親子は……』と呆れていたような気がするけど、きっと気のせいだ。


「して。これからどうするのだ? いくら帰蝶が美少女でも、見ているだけでは腹は満たされんぞ?」


「しばらくは私が養いましょう。いずれは薬作りなど手伝ってもらえればと。お酒を造るのもいいですね」


 普通に売ってもいいし消毒液を作ってもいい。問題は戦国時代が恒常的な食糧難ってところか。お酒造りに使えるほどお米に余裕はなさそう。


 そう考えると消毒液はコークス製造のついでに石炭酸フェノールを作った方がいいかもね。なにせ世界初の無菌外科手術に使用されていた由緒正しい消毒液だ。

 あぁでも損傷皮膚に使うと中毒症状を起こすかもしれないんだっけ? そうなるとやっぱりエタノールの方がいいのか……。


 私が頭の中で今後の予定を立てていると父様が納得したように頷いた。


「……なるほど。ヤツらは日々の食事にすら難儀していたところを帰蝶に救われた形となる。普通に金で雇うよりは忠誠心が高く、薬の配合などをよそに漏らす可能性が低くなるか。そこまで考えているとはさすが我が娘よな」


 いやそこまで考えてませんが? 息を吐くように謀略しちゃうあなたと一緒にしないでいただきたい。


 私としては声高に異議を唱えたいところだったのに、光秀さんは『やはりお館様の娘か……』と心底納得したような顔をしていた。解せぬ。



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