未来の王太子夫妻の恋 7
▫︎◇▫︎
「おじーさま………。」
3歳のキャサリンは、当時はまだ存命だった祖父の寝室に沈んだ声で訪れていた。街に溶け込むためのお洋服は泥がぶつけられ、髪には引っ張られた跡がある。
「キャサリンか、………また虐められたのか?」
「………じょーずにおともだちとあそべなくてごめんなさい。」
祖父の優しすぎるまでに優しく、穏やかな声に、キャサリンはなおのこと俯いて、痛みに耐えるような沈痛な表情になった。
「泣かなかったのかい?」
「………、」
「偉い偉い。キャサリンは本当に良い子だ。そういう奴はな、虐めた相手が泣くことを心の底から楽しんでいるんだ。だからな、どんなことがあっても、人前で泣いてはいけない。そういう奴が喜ぶ原因になるからな。泣いたら負けだ。泣かなかったら、勝ちだ。だから、アイツらはキャサリンに負けたんだ。分かったか?」
「うん、」
キャサリンは大好きな祖父によしよししてもらって、泣き笑いのような表情を浮かべた。
祖父のしわがれた声が、いつにも増して弱っている。
「おじーさま、キャサリンはなにがあってもなかないよ。おやくそくする。」
「そうかそうか、キャサリンは強い、な。」
祖父はキャサリンの頭をまた優しく撫でてくれた。
そして、祖父はこの言葉を最後に、キャサリンの頭に手を乗せたまま目を瞑って微笑んで、ピクリとも動かなくなった。
そう、優しくて大好きなキャサリンの祖父は、キャサリンへの言葉を遺して、そのまま事切れてしまったのだ。
キャサリンは泣けなかった。ずっとずっと彼の動かなくなってしまって手を前に、必死になって耐え続けていた。誰もが心配した。けれど、キャサリンはその姿勢を崩すことはなかった。
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