第7話
「じゃあ1回しか言わないので耳をかっぽじって1回で聞き取れよ、
「はあ!?俺をクソ野郎呼ばわりとは何事だ!!ギルバート・クラヂッチュ!!」
決め言葉で思いっきり舌を噛んだガイセルは、口元を押さえて目に涙を溜めた状態で座り込んだ。噛む場所が悪かったか、よっぽど痛かったのだろう。
「噛みましたね。」
「あぁ、噛んだな。
ギルバートは心底面倒臭そうに名乗った。ガイセルが自分の名前を知っていることは重々承知なはずなのにここで名乗ったのは、ガイセルに恥をかかせるための嫌がらせだろう。
「どうでも良いだろう!!」
「どうでもなんて良くありませんわ!!
重鎮の一族の名前すらまともに言えませんの!?」
「貴様には関係ないだろう!!」
またしても名前を馬鹿にされたことに激怒したメアリーは、ガイセルにギャンギャンと噛み付いた。だが、メアリーが言っていることは至って正論だったため、周りにいた人間はうんうんと見事に王妃とカロリーナを除く全員が頷いていた。
「あぁん?
どうやらガイセルは、メアリーの地雷を踏み抜いたその足を、そのままギルバートの地雷に突っ込んで踏み抜いてしまったらしい。
本当に愚かで救いようのない男だ。
「ひぃ!!」
「あぁーあ、やっちゃった。ご愁傷様、
メアリーはこれ見よがしの嬉しそうな笑顔を咲かせて言った。
どうやらご愁傷様と言ったメアリーには、言葉に反してガイセルに対する憐れみが一切ないらしい。
「ねぇアリー、もう
「そうね、面倒くさいわね。」
愛おしむように優しくメアリーの絹のようにさらりとした髪に触れたギルバートが言った言葉に、メアリーは本心を返した。
「あ、アリー今敬語なしで砕けた本心を話してくれたね!!」
「ふぇ!?」
素っ頓狂なメアリーの悲鳴は、カロリーナのあげた悲鳴とは比べようもないほど、とても幼く愛らしかった。
「そのままにしてよ!!私は砕けた口調の君とお話ししたいな。」
「あ、あぅー、………ギルの意地悪、でも、わ、分かった、わ。」
「うん、とっても良い子だ。」
ギルバートの手が髪からメアリーの頭に移り、絶妙な力加減で頭を撫でた。
メアリーは、恥ずかしそうにしながらも、無意識のうちにご機嫌な子猫のようにギルバートの手にスリスリと擦り寄った。
「………ここ30分で沢山のことが変わってしまった気がする。」
ぽつりとしたメアリーの独白がこぼれ落ちた。幸せそうな安心し切った表情には、ギルバートへの壮絶なまでの厚い信頼が滲んでいた。
「そうだね、良い方向に変わったね。」
「そうかしら?」
「そうだよ。」
「ギルがそう言うなら、そういうことにするわ。」
(ギルはいつも私を安心させてくれる。私の欲しい言葉をくれる。一時は顔を合わせられないほどにすれ違っていただなんて今ではまったくもって考えられないわね。)
メアリーは愛おしいもう少しで旦那様となるギルバートの顔を見て、思考を過去の旅へと連れ出した。
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