第3話
「……して、王太子殿下?この場には見ての通り国王陛下もおられますが、どのように片付けるおつもりで?」
「はあ!?俺は何も悪いことをしていないのだから、なんの問題もないだろう?」
叫び声をあげて幼子のように駄々をこねるガイセルに、メアリーは閉じた扇子を口元に持っていき、侮蔑の視線を寄越した。周りの人間もほとんど全てが、そのような感じになってしまっている。
「……ギル様、こんなのが次期国王でこの国の未来は大丈夫なのですか?」
「大丈夫ではないね。」
「ですよねー。」
ギルバートはこれでもかと言うほどに、にこやかに言い切った。
「っ貴様ら、俺様を愚弄したな!!なれば、国外追放にしてやるわー!!」
「まぁ!セルさまぁ、そんなことを言ってはギルバートさまと、女狐が可哀想ですわぁー!」
「あぁ!カロリーナ、君はこのような時にまで、聖母のように慈悲深いのだな……!!」
「そんなぁ!セルさまは大袈裟ですわぁ!」
怒り狂っているにも関わらず、カロリーナにだけは優しく話しかけるガイセルと、耳がキンキンするような高い声を上げるカロリーナに、皆とんだ茶番だと辟易とした。
「………ギル様、私はもう疲れました。国王陛下にご挨拶してさっさとお暇しましよう?」
「あぁ、そうだな、アリー。ここにいてはアリーの心が穢れてしまう、さっさと帰ることにしよう。
それと、この場で起きたことについては君は一切気にしなくてもいいからね。白薔薇のように美しい君を疲れさせた不届き者については、私が後から片付けよう、この世にいる者は何人たりとも君を疲れさせることなど許されていないのだから。」
「まぁ!それこそ大袈裟ですわよ、ギル様。ですが、茶番のお片づけはよろしくお願いいたします。私にはこの場を収束させるほどの力はございませんもの。……私、ギル様のお役に立つどころか、足を引っ張ってばかりで、とっても情け無いですわ。」
「そんなことはないよ。君のおかげで私の目論みが簡単に達成できるようになったのだからね。」
「?」
ギルバートの妖艶な笑みと言葉に、メアリーはほっとする反面、今度は何を企んでいるのだろうかとわくわくしていた。
「アリー、企みごとには安易に首を突っ込んではいけないと私は教えたはずだよ?」
「ふぁわわ、ご、ごめんなさい、ギル様。」
「ははは、……ねぇアリー、これから先どうなるか知りたいかい?」
「……あぅー、し、知りたいです。」
メアリーは貴族の娘にしては年齢相応に好奇心旺盛なため、1度気になりだすと、結果を知るまで諦めない性格だ。そして、幼いころからの付き合いである、いわゆる幼馴染というやつであるギルバートは、そんなメアリーの危険な性格を嫌と言うほど、身を以て熟知している。だから、危険なことには巻き込みたくないと思っているギルバートも、これから起こることに興味を持って目をキラキラと輝かせ始めたメアリーを丸め込むのは容易なことではなく、かえってメアリーの気を引いてしまうことはよ~く分かっている。
「じゃあ、これを一緒に片付けてから、一緒にお屋敷に帰ろうか。」
「はい!!」
メアリーの風の精霊のように美しいご機嫌な笑顔に、同性までもが皆、見惚れてしまった。
そんな美しいメアリーを、誰にも渡すまいと抱く手を強めたギルバートは唐突に国王に向かって、何食わぬ顔で話しかけた。
「と、いうことで国王陛下、心のご準備の方はよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わぬ。愚息を好きにせい。」
「ありがとうございます。この借りはいずれの日にか。」
「案ずるな、借りは今まで通り過ごすだけで返せる。これからも忠臣として、王家に誠意を持って尽くしてくれ。」
「ありがたきお言葉にございます。」
「うむ。」
この会話についていくことが出来なかったのは、ガイセルとその母親たる王妃と、愚かな、ことの発端たる娘のカロリーナだけだった。
「では王太子殿下、ではなく、ガイセル殿ですかね?まぁ、どちらでも関係ないですね。これより、貴方の断罪式を始めさせていただきます。」
「わぁーい!!」
「はあ?」
メアリーは場を盛り上げるためか小さく手を叩いて歓声をあげ、ガイセルは怪訝な表情をした。
「まず1つ目の重罪は私の婚約者である、メアリー・コレットに無礼を働いたことです。」
「はんっ、たかが伯爵家の娘だろう?そんなのに無礼を働いて何が悪い。」
ギルバートの笑顔なのに冷たい声という器用な芸当に、ガイセルは悪びれることもなく、自分の非を認めなかった。
「たかが伯爵家、されど伯爵家ですよ?」
「何が言いたい。」
「私は一応高位貴族に分類される隣国の伯爵家出身です。ですから、私にいちゃもんをつけると、国同士の国家問題となるということが言いたいのですわ。」
メアリーはにこにこと屈託なく笑って言った。先程まで面倒だからと国際問題にならないようにする方法を考えていたにも関わらず、ギルバートが断罪を始めたからという小さな理由だけで、国際問題に発展することを一切意識しなくなったあたり、メアリーのギルバート至上主義は末恐ろしい。
(ギル様はおそらく彼の失脚を狙っているわ。ならば、私のお家の力を使わないっていう手は存在していないわね。あぁ、やっとギル様のお役に立つことが出来るわ………!!)
「あぁ、あと貴方方は『コレット商会』をご存知ですか?」
「俺を馬鹿にしているのか!?それくらい知っているに決まっている!!『コレット商会』はこの大陸1を誇る大商会なんだからな!!」
ガイセルの叫び声が、会場内に響き渡るように木霊した。
「ま、ままま、まさか!?」」
「うふふ、えぇ、そのまさかですわ。」
ガイセルに比べると察しの良いカロリーナは、メアリーのガイセルへの問いかけから何かに気がついたのか、怯えたか細い声を上げた。
「改めまして、私、否、わたくしはコレット伯爵家当主兼『コレット商会』が会長の娘、幹部職をいただいているメアリー・コレットと申します。以後、お見知り置きを。」
「………ギャァァァァァ!!」
メアリーの渾身の挨拶に、カロリーナはあられもない悲鳴を上げた。
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