第2話
ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべた頭痛の要因を、メアリーは慈愛の含んだように見える瞳でただただ無心になって眺めていた。
だが、唐突にメアリーが何かを感じたのか、疲れたような愛想笑いから、分かりやすく顔を輝かせた。
(ギル様!!)
「えーっと、王太子殿下?で合ってましたわよね?
この茶番をさっさと終わらせましょう!!私の愛しのギル様がこちらにきておりますから!!」
「「はあ!?」」
メアリーの喜色満面の叫び声に、ガイセルとカロリーナは目を白黒とさせて意味が分からないと如実に語っていた。
「だーかーらー、ギル様がもう後1分ほどでこちらにご到着なさるので、このくだらない茶番を終わりにしましょうと言っているのですわ!!ギル様にこんな情け無いところ見せられませんもの!!」
「「はあ!?」」
「物分かりが悪い人間は嫌いですわ!!」
メアリーは近づいてくるギルという男の気配に、半分自暴自棄になって高らかと叫んだ。
「アリー、人に向かって嫌いって言うのは良くないことだよ?」
「びゃ!!あわわ、ぎ、ギル様……。その、これは、えっと、………あぅー、ごめんなさい」
颯爽と現れたメアリーにギルと呼ばれている男は、直毛の漆黒の短髪を触りながら、深い深い海のような瞳を微笑みに象った。
「えっと、ギル様、ご機嫌麗しゅうございます。3時間5分37秒ぶりにお会いしましたが、また一段とキラキラオーラが満開で、とってもとっても格好良いですわ!!その夜の静寂のような漆黒の黒髪も、海のような青い瞳ももう、言葉では言い表せないくらいに、それはもう最高ですわー!!」
「ありがとう、アリー。アリーも私の贈ったドレスを着てくれて私はとても嬉しいよ。だけど、他の男もこの美しい君を見ているかと思うと、イラッとしてしまう。あぁ、どうして私はこんなにも心が狭いのだろうか……!!」
メアリーとギルの壮絶な挨拶に、当然ながら周りの人間は2人を除いて皆、毒気を抜かれてしまった。
「ぎ、ギルバート・クラディッシュ!!貴様!何用だ!!」
「やっと婚約者になれた、私の愛しの婚約者をエスコートしにきたのですが何か?」
「はあ!?誰も身体に触れることを許さないほどの潔癖のお前がか!?」
「そうですが何か?」
ガイセルは信じられないモノを見てしまったようにのたうち回り、一方のギルバートはご機嫌そうにメアリーの腰を抱いていた。メアリーは先程の有頂天から打って変わり、居心地悪そうにしていた。
「……あの、ギル様、私のこと嫌いになってしまいましたか?」
「ん?どうしてだい?」
ギルバートはメアリーを甘やかすように艶やかな銀髪をするりと撫でた。
「………ギル様の仕える王室の方であらせられる、お馬鹿で救いようのない王太子殿下にご無礼を働いてしまったからです」
「うん、アリー、ひとまず私は怒ってないから安心して。それどころか、スッキリしているよ。この愚かな王太子と呼ぶには虫唾が走るほどの出来損ないに、もっと罵詈雑言を言ってやって欲しいくらいだよ」
にっこりしたと闇の含まれた笑みに、メアリーは不安そうに上目遣いで瞳をうるうるとさせた。
「…ほんとう……?」
「あぁ、本当だよ。それにしても、アリーは本当に可愛いな」
ぽんっとメアリーの顔が分かりやすく赤く染まった。誰でも簡単に分かる、まさに恋する乙女の表情だ。
「……お慕いしております、ギル様」
「知ってるよ」
独占欲丸出しのギルバート色のドレスに身を包んだメアリーと、お揃いのデザインのスーツに身を包んでいるギルバートに、人々は生やさしい視線を寄越した。
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