第22話
終章 子供たちへ
スッと起きる。
私はなんきもなしに傍を見る。しかし、昨日までいた彼がいない。入り口の扉がかすかな光を差し込んでくる。多分、朝だ。昼や夕方だともっと鬱蒼(うっそう)としている。
私は彼がいない空間で、しかし、まるで彼がそこにいるかのようにずっと彼のいた場所を見続けた。
しばらくして、入り口の扉が歪む。入ってきたのはミハイルさんだった。
「おはよう」
「おはようございます」
私は立ち上がってミハイルさんにお辞儀(おじぎ)をした。ミハイルさんは頷いて言った。
「帰るか?」
「ええ」
あまりの即答にミハイルさんは少し驚いているようだった。
「未練(みれん)はないのか?」
「ありません」
私はキッパリ言う。そして拳を胸に置いてハッキリ言った。
「だって、レバントはここにいますから」
それにミハイルさんはコクリと頷いた(うなずいた)。
「そうか、では帰るか。魔力探知(まりょくたんち)を遮断(しゃだん)してくれ」
「はい」
探知機関を遮断(しゃだん)した。
「いいですよ」
ミハイルさんは私の手を掴んだ。
「では、いくぞ」
「はい」
膨大(ぼうだい)な光に包まれ、私たちは飛び出した。
ここは?
夥しい(おびただしい)光の洪水の中私はうっすら目を開ける。その光の洪水の中を私たちは飛んでいた。
テレポテート?
そうだった。この感覚(かんかく)はテレポートに似ていた。ただ、テレポテーションがないのにそれをするのは驚きだが、それよりも驚いたのは光の量。おそらく魔力があふれんばかりに蠢いていたのだ。
こんなに鮮やかで激しいオーラ見たことない。どこに行くの?
もしかして、魔王城?いや、でも…
恐れはないよ。レバント、あなたがそばにいるから私は何も恐れるものはない。
「着くぞ」
私はミハイルさんの手をぎゅっと握った。
ついたそこは予想もしない場所だった。
空が鮮やかな蒼穹(そうきゅう)を示し、ちゃんと立っていられる雲があった。そして……
王宮(おうきゅう)?
そうおもわずにはいられないほど、昔の建築。大きな柱が幾重(いくえ)にも連なる建築の宮殿がそこにあった。それも驚いたのだが、この世界で数多(あまた)の存在(そんざい)が飛んでいた。
天使たち?
そうだった。天使たちが忙しなく飛んでいた。そんな困惑(こんわく)している私に一人の天使が舞い降りた。
その天使は中性的な顔立ちで、女性ということはわかるが、ショートヘアと冷たさを感じさせる瞳、小さな鼻、少し女性にしては太い首筋、肩幅、そして、広すぎず、鋭角すぎない、中性的な顔立ちが、何か意志の強さを感じられた。
「カレン。後は頼んだ」
「はい。ミハイル様」
カレンと呼ばれた天使はぺこりと彼にお辞儀(おじぎ)をする。
そして、私に向き直った。
「では、行きましょうか?アイリスどの」
「あ、ちょっと待って!」
私はミハイルさんに方を向いた。
「ミハイルさん!あなたたち悪魔と天使って一体………………………」
それに彼は被り(かぶり)を振るう。
「残念ながら、それを人に答える権限(けんげん)はオレには持ち合わせていないんだ」
そして、彼はすっと王宮(おうきゅう)を指した。
「その中にいる人に聞くといい。彼女が君に教えるかどうかわからないが、その権限(けんげん)を持ち合わせている」
「あ、はい」
「よろしいですか?」
カレンが言った。
「あ、はい、大丈夫です」
「では行きます。ついてきてください」
ついてこい、と言われても、私が立っている雲がそのまま王宮(おうきゅう)のほうに向かって行った。
カレンさんが操作しているのだろうか?
「着きました」
「あ、はい」
雲は王宮(おうきゅう)の前の雲のそばにきて合体した。
「どうぞ」
「あ、はい」
正直言って恐る恐る雲を渡った。無事、下に落ちることもなく渡り終えることができた。
「こちらです」
「はい」
私は王宮(おうきゅう)(昔の王宮(おうきゅう)風)の中を歩いた。中は自然な明るさに満ちていて、どこか心を安心させるような場所だった。
赤いカーペットと幾重にも連なる廊下、そして、扉。しかし、カレンさんは迷わない足取りで歩いていく。
私も彼女の背中だけを見つめて歩いた。
色々と聞きたいことがあった。だが、彼女では答えられない気がする。なんとなくだが、悪魔と天使は共同している気がする。
レバントも悪魔はエルフや人間の女性を保護するために動いていると言っていた。それはほとんど天使と同じではないか?
ならば、なぜ彼らは一緒に作業をしないのか?悪魔を人間たちに紹介しないのか?
悩みは深まる一方だったが、突然、カレンの足が止まった。
「どうしました?」
「着きました」
そして、カレンが身を翻して(ひるがえして)手で案内した先にあるものは………
荘厳な黄金の扉だった。そこだけまるで別の空間であるかのような特別さが感じられた。
「それでは、私はこれで」
「え?これは普通にあければいいの?」
およそ3メートルほどの巨大な扉に私は唸った。
「自然に開きます。というより、中のお方が許可(きょか)しないとその扉が開くことはないでしょう」
「そう、か」
中のお方。どんな人なんだろう?みんなが一目置いていることから分かる限り、相当(そうとう)位の高い方だと思うが。
そうこうしているうちに黄金の扉がギギギとゆっくり開いた。
カレンはうなずく。
「お入りください」
私は意を決して、扉が完全に開いてから中に入った。
「失礼しまーす」
その部屋は殺風景(さっぷうけい)な場所だった。
扇型の空間に床も壁も全て黄金。しかし、奥の壁は空にむき出しになっていて、どこか非現実的な空間だったが、しかし、それだけであった。
およそ、生活感ともいえる場所はまるでなかった。
訂正。よく見ると奥の壁は透明な板のようだった。あまりにクリアだったから、わからなかった。
そして、私に対して一人のドレス姿の女性が背を向けていた。
「あのー、あなた様は誰ですか?」
しかし、私の問いには答えず、彼女は言った。
「よく、きました人の子よ」
それは美しい声音だった。どこか煌びやか(きらびやか)でありながらも、儚げ(はかなげ)であり本当に、神の声ともいえるようなもので、私は姿勢を正した。
彼女が振り向く。そして、私は思わず、あ!と言った。
ブロンドヘアで前髪を横に流し、しかし、左の前髪はストレートに胸のあたりまで垂らしていて、後ろの髪はスーッと腰まで伸ばしていた。
そして、月桂樹の冠をつけていたが、その髪は本当にサラサラしていたし、かすかだが光っている。
だが、私は驚いた場所はそこだけじゃあなかった。顔のなんと美しいこと。
大きな目と小さな花細い唇。鋭利な顎、きめ細やかな肌。
それだけ聞くと普通の美女かも思うかもしれないが、どこか儚げ(はかなげ)でありながら神々しさを醸し出す雰囲気を明らかに、女性として感嘆(かんたん)する以前に、本当に美の原型がそこにいるかのような印象を与えた。
「どうぞ」
手を差し出す。すると黄金の椅子が現れた。
「座ってください」
「はい」
私は座ることにした。
顔だけに気を取られたけど、胸もかなりでかいな。
彼女は白いドレスを着ていたが、谷間がすごい感じで強調されている。
まるで、この人は。
「紹介が遅れましたね、アイリス。私の名はイシス。あなたたちがいう女神イシスです」
「やっぱりそうだったんですね」
やっぱり、この人は女神イシス様だったんだ。通りでただものではないと思ったよ。
「あの!」
私は女神様の前ではあるが勇気を振り絞って言った。
「不躾な(ぶしつけな)質問ですみませんが、いくつか質問してもいいですか!?」
しかし、女神様は私の質問には直接答えなかった。
「あの森」
「はい」
「あの森でモンスターにさらわれてレイプされた女性にはじつはいくつかの記憶改ざんを行います」
「……………………………………」
「まずはレイプされた、というのを記憶ではなく記録にします。これであまりに生々しい感情をシャットダウンします。そうですね、こういえばいいかしら?現実で起きた出来事としてではなく、まるで劇場で芝居を見ているかのような感覚にすり替えるのです」
「……………………………………」
「そして、救援に向かった悪魔たちの記憶も一切遮断(しゃだん)します。本来ならば、あなたもその記憶、記録を改ざんしないといけないのですが」
私は、ゾゾっと背筋(せすじ)が凍った。
「本来の規則ならば、あなたはあの森の出来事を忘れてくれた方が私たちのためですが、あなたは望みますか?」
「私は………………………」
言い淀んだが、しかし、心には確固とした意志があった。
「私は望みません。記憶は消されたくはありません」
それに女神様はうなずいた。
「そうですね。普通愛しい人との記憶を消されることは望みませんね。特に女の子は」
それで、私はピンときた。
「女神様にも愛しい人がいるのですか?」
「ふふ、それを言ってくださいな。それは秘密にしておきましょう」
そう言って、女神様は悪戯っぽく(いたずらっぽく)笑ったが、やはり品の良さは隠せなかった。
「あ、はい」
「そうそう、もう、あなたの迎えが来ているようですよ」
また、黄金の扉が開いた。私は立ち上がる。そこにはクールビューティーの美女、サラさんがいた。
サラさんは敬礼して入ってく。
「イシス様」
「ご苦労様です。サラ。彼女は記憶を改ざんしないようにお願いします」
サラさんは一瞬、動きが止まった。
「誰だって、愛しい人の記憶を持っていたいですから。あなたと同じように。サラ」
それにサラさんはうなずいた。
「そうですね」
そして、サラさんはこちらに向き直った。
「それでは帰りましょうか?アイリス」
「はい」
私は女神様に敬礼をしてその場をさった。
そして、神殿のとある一室にやってきた。
「テレポテーション?」
そうだ、そこは魔法陣が描かれてあってざっとみた感じテレポテーションの魔術式が描かれてあるが、何せかなり複雑なので、疑問形にせざるを得なかった。
サラさんはうなずいた。
「ええ、そうよ。テレポテーションよ、これは。なくても自力でできるけど、一応ここを通ることが慣し(ならわし)になっているの。もう、帰っても大丈夫でしょう?」
それに私は頷く。
「はい」
「じゃあ、陣の中へ入って」
陣の中へ入った。
「フェドラ町まで飛ぶわよ」
「はい」
光に包まれたと思うと私たちは一気に消え去った。
目を開けるとうららかな陽光が目をくすぐる。ここはどこだろう?
白い石畳、ガラス窓と天窓から陽光が差し込む白い大きな部屋。
私はテレポテーションで、ここは?
私はすぐそばにいたサラさんの方へ向いた。サラさんはにっこりする。
「大丈夫。ここはフェドラ町よ。天使区(く)画の建物の中よ、ここは」
「そうか、帰ったんだ」
不思議(ふしぎ)と安堵の吐息は出なかった。ただ自分がフェドラ町にいることが不思議(ふしぎ)だった。
サラさんが不思議(ふしぎ)な表情をする。
「あら、安心の言葉は出ないの?」
「ええ。ちょっといろいろありましたから、何かこの場に戻れたことが不思議(ふしぎ)で」
「なら」
サラさんが私の手を取る。
「中庭にいらっしゃいな。もうちょっと現実感(じっかん)が出るかもしれないわよ?」
「はい」
手を引かれるままに中庭に出た。サフランの香りがする。やはり、現実のフェドラ町だ。天使区(く)画の中庭と全く違い(ちがい)はない。
なのに、私はなぜか現実味(げんじつみ)がなかった。いろいろと出来事が起きたせいかもしれない。
サラさんは私にベンチに腰掛けることを勧めた。私も承諾する。
「いい天気ねー」
「ええ」
私は上の空で空を見つめる。しばらくしてからサラさんがこちらを見ていることに気づいた。
「何か?」
「私、あなたに伝えなくちゃいけないことがあるの。別に私が伝える必要性は本来はないんだけどね。一応」
「?」
一体なんだろう?
「あなたのお母様がお亡くなりになったの」
「え!?」
「あれは1週間前ぐらいかしら?急激に容態が悪化してね。それで一日してお亡くなりになったの。郵便は出したのだけどね、あなたの赴任先には少し時間がかかって、なおかつゴラーシで魔物の大群が押し寄せたから足止めを食らって、前の町で一泊したところまた出たらあなたが攫われたとの連絡を郵便の人が聞いて、それを聞いたフェドラ町の人たちは結構(けっこう)パニックだったのよ私たちは」
「そう、ですか。すみませんでした。迷惑かけて」
それにサラさんはふふと笑った。
「いいの、いいの。規則がなければ私が飛んで伝えることもできたんだけど、やはり規則は破れなくてね。ともかくあなたが無事で何よりだわ」
「はい」
そして私は母のことを思う。本来なら悲しみに打ちひしがれなければならないだろう。
しかし、私はレバントを知った。そして、母と父の大きな功績(こうせき)に私は大きな誇りを抱いていた。
よく頑張ったね。お父様、お母さん。
二人とも私のために動いてくれた。精一杯(せいいっぱい)愛してくれた。レバントと出会った今ならわかる。二人の功績が。
私は立ち上がった。
「お母さんはどこの墓跡に埋葬されましたか?」
「私が案内するわ。本来なら、天使は人に無用な関与(かんよ)は避けるべきだろうけど、まあ、これぐらいは大丈夫よ」
「お願いします」
私はサラさんに頭を下げて一緒に墓地に向かった、そして、お母さんのお墓の前にやってきた。
センと描かれた墓標を屈んで見下ろす。
お母さん、ありがとう。アイリスはあなたがくれたことを誇りに思い、生きていきます。
そして、建てられている十字架に礼をした。もう、時刻はすっかり夕刻だ。日が沈みかかっている。
そして、墓場の入り口でサラと別れ、私は酒場にやってきた。私が来るとみんな驚いていた。
なんでも、私の帰還は天使たちに聞いていたらしいが、実際にこの目で見るまではなんとなく安心ができなかったそうだ。
「そりゃ、そうだ。モンスターにさらわれて無傷で帰ってきたと言われても安心できるかよ」
ゴルドー爺さんはそういうとぐいっとビールを飲んだ。
「でも、私本当に何もなかったですよ」
ゴルドーは疑い(うたがい)の目を向けてくる。
「本当に?今まで何人もの女性たちがモンスターにやられているのに、本当に何もなかったのか?」
「私、強いですから、機転をきかせて逃げ出しました。それから森の中でサバイバルをして、偶然通りかかった天使に救助されたんです」
それにゴルドーはふむふむとうなずいた。
「世の中奇跡ってことがあるもんだな」
ほっ
他のみんなもこんな説明で納得してくれたようだ。その時、ジムが店内に入ってくる。
「おーい、ジムー」
ジムはコクリと頷くとこちらに歩いてきた。
「大丈夫だったか?」
そう聞くジムの表情は優しく、思わずどきりとしてしまう。
「うん、大丈夫。奇跡的に天使に救助されたから」
「そうか。モンスターに奪われたと聞いた時はもうダメだ、と思ったんだが、その1日後に天使たちが保護しているということを聞いてな。正直言って、姿を見る前半信半疑だったが、しかし、大丈夫そうだ」
そうジムは優しい(やさしい)瞳をして言ってきた。
「もう、何が、大丈夫そうだ、よ。もっと私に心配してくれてもいいんじゃない?」
それにくっくとジムは笑う。
「本当に大丈夫そうだな」
「もう。何それー」
そう言って口を尖らすが、内心ではかなり見透かれている、と冷や汗(ひやあせ)をかいていた。
「おかみ」
ジムがいう。
「今日はバケットのサンドイッチとスープをもらえるか?」
それに女将はウィンクをする。
「ジム。今日はアイリスちゃんが無事帰ってきたお祝いだから、なんでも頼んでよ」
「いや、それをもらいたい。今はそれを食べたい気分なんだ」
女将はガハハとわらた。
「あんたも頑固者(がんこもの)だね。わかった、わかった、それを作ってあげるからね」
それでおかみさんは引っ込んでいた。
私はジムに話しかける。
「ねぇ………」
「それにしてもひでぇ話だぜ。センちゃんはよ」
そう私が言いかけた途端、一人の中年の男性が言った。
「ああ、そうだ、そうだ。葬式にも顔を見せねえとは、レバント様も結構(けっこう)薄情(はくじょう)な方だよな」
「せめてもの、葬式ぐらいは顔を見せればいいものを。本当にセンちゃん、幻術(げんじゅつ)にかけられたんじゃないのか?」
ちげえねえ。という声があちこちに湧き上がった。
私は無言で立ち上がった。
「アイリス?」
後ろからジムの声が聞こえたが、そんなのは無視して私は言い出しっぺの中年の男性の前に来ると拳でぶん殴った。
「お、おい!」
みんなが驚きの声を上げる。私は男性の無脱ぐらをつかんでいった。
「いい?一度しか言わないからよく聞きなさい。お父様は素晴らしい方よ!お母さんは騙されて(だまされて)なんかはいない!そして、もう一度お父様を侮辱(ぶじょく)することがあったらあなたに決闘を申し込むわ!」
ざわめきが止んだ。
しかし、ポツリと一雫(ひとしずく)の声がした。
「でもよぉ。確かに領主(りょうしゅ)様の気持ちもわからないでもないけど、葬式ぐらい顔立ち立って、別にいいんじゃねえの?もう、アイリスちゃんが生まれてきたから18年ぐらいになるわけだし………」
「でも、ついさっきまでお父様はお母さんに養育費(よういくひ)を払ってくれました。それにお母さんの病気の治療費(ちりょうひ)だってお父様は払ってくれました。正妻の方は相当(そうとう)私に不信感を今でも抱いていると思いますが?」
それに皆押し黙った。
それで勝負あったと私は思い、ジムのところに帰っていった。
ジムは透明な表情で私を見つめ続けていた。
「な、何?」
ちょっと驚いたので、声をかけてみる。
「いや、アイリス、変わったな、と思って」
「そ、そうかな?」
ジムはコクリと頷く。
「迷いがなくなった」
それにちょっとどきりとする。
「ま、まあ、あれかな?討伐隊(とうばつたい)で色々揉まれてきたから、ちょっと迷いが吹っ切れたかな?」
それにジムはうなずいた。
「そうだろうね。悩み聞いてもらった?」
「う、うん」
「何かいい人に巡り(めぐり)会えたような気がする」
「まあ、いろんな人がいて、いい経験になったよ」
「そうだろうね」
なんとか誤魔化した。やはり幼なじみだから、ジムは私に関してはやたら鋭い。もともと頭もいいし。でも、ジムにはレバントのことを隠し通すつもりだった。
うん、ジムはいい人だ。それなのに、私は男性一般を一括りにして疑念を持ってしまった。
色々あった。だが、どれも無駄ではないような気がした。エカテリーナのこと、エルザのこと、ブロスのこと、ヴィクトルのこと、マルスのこと、そしてレバントのこと。
ありがとう。レバント。あなたに会えて男性を一括りにしないでできたように思える。いや、これまで私の中の男性観に迷いが生じてきたけど、私が信頼していいと思う人には信頼してもいいと後押しをしてくれたね。あなたに出会えて本当に良かった。そして………
私はジムを見る。ジムも見つめ返す。
「何?」
「ううん。私討伐隊(とうばつたい)やめる。あなたのお嫁さんになるわ」
それにジムは頷いた(うなずいた)。
「仕事はどうするんだ?俺の自警団(じけいだん)の職業だけじゃあ養え(やしなえ)ない」
「働くわ。あなたと同じ自警団(じけいだん)の仕事をする。子供ができても、できる範囲で働くわ」
それに彼はコクリと頷いた(うなずいた)。
「いいよ。プロポーズはまた三日後あたりに」
「うん。待ってる」
「よ!お熱いお二人にはサービスだ!」
と、おかみさんが言うや否や、テーブルに豪華料理が運ばれてくる。
「僕はバケットサンドと、スープを………」
おかみさんはニカっと笑う。
「それも入っているよ」
「……………………………」
それにジムは黙るしかない、次々と運ばれる料理を食べるしかなく、他の街の人たちも私たちのことを祝福(しゅくふく)してくれた。
私はジムを見つめる。ジムは他の人に祝福(しゅくふく)されて戸惑っているようだ。
いずれ、私はこの人の子供をお腹に宿す。もし、子供を産んだときに私はどうやって子供を育てていくのだろう?
だが、その心配は杞憂(きゆう)だった。私の背中を押してくれる三つの存在(そんざい)を感じていた。
うん。私にはできる。だって、私のために身を挺して(みをていして)助けてくれてた人たちが何人もいてくれたから、私にはちゃんと子供を育てられる。
それは辛い旅路だろう。でも、私を守ってくれた人もその旅路を道に外れることなく到達できたから、私もきっとできる。
ありがとう、みんな。みんなに支えられてきたからアイリスはここにいます。
完
チルドレン サマエル3151 @nacht459
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