第14話モンスター索敵
それから訓練と任務(にんむ)に励み(はげみ)つつ、私は考えていた。この社会のこと。
同じような悪いことがある一方では厳しく(きびしく)摘発(てきはつ)を受けているのに、似たようなことをされても全然罰せられない。
もしかしたらマーサさんはマルスがやがては自分のことを振り向いていくれると思っているかもしれない。いや、妻子を知っていないこともありうるけど、しかし話を戻すのならば、もし妻子のことを知っていてなおかつ、マルスのことを好きでいつかは振り向いてくれるかもしれないと考えるならば、それは他人の関与(かんよ)することではないだろう。
当事者の問題なのだから。しかし、その一方でそれを承知(しょうち)の上で付き合っていてもマルスとマーサが結ばれる確率(かくりつ)はとてつもなく低いということを我々は知っている。
それにマルスの動機が完全にスケベな目的だ。それでは犯罪者やモンスターとどこが違うのか?
そういうことを悶々(もんもん)と考えながら日々を過ごしているとやがて、それが起きたんだ。
夕食を済ませ、ホテル内にある共同浴場に風呂に入って出て、部屋に戻ったら、今日のパートナーだった、エルザがほんわかした笑みをこちらに見せた。私も笑顔で返す。
「今日一日お疲れ様」
「いえいえ、こちらこそ」
そして、私はベッドにこしかける。今はパジャマしか着ているものはいない。
そんな私にエルザが聞いてくる。
「今日は寝るんですか?」
「ええ、もう寝ようと思って」
あれからヴィクトルの勧告(かんこく)を聞き訓練は程々(ほどほど)にしていた。そして、このまま眠るつもりだった。アレが起きるまでは。
その時、部屋のうちがからドタドタとした足音が来た。そして、バンと開けられる扉。
「みんな!大変(たいへん)よ!」
エカテリーナだった。肩で息をしている。
私たちはそれに何事かと思い彼女のそばによる。
「どうしましたか」
私はただ、おっ、としたただけだが、エルザは水を用意してくれてコップをエカテリーナに渡す。それをエカテリーナがゴクゴク飲んだ後言った。
「隣町がモンスターの大群に襲われているの!」
「隣町というと、ゴラーシ町!」
ゴラーシ町とはここ一体で大きな町だった。ここより北東にある町で主にここら辺一帯の商い(あきない)で儲けている町だ。
ここの目と鼻の先にはモンスターにいる暗き森がある。そこはかなり危険だが、だからこそ、そこでしか取れない野菜、薬草、果物にはかなりの希少(きしょう)価値がある。そこに命知らずの冒険者がそういう薬草や果物を求めて獲得する際に、主にそれを欲している側の金と物の交換によってかなりの莫大(ばくだい)な商売をしているところで、それらの中継地点を果たして(はたして)いるのがゴラーシの商人たちなのだ。冒険したかったらゴラーシに行け、と言われるぐらいの商業都市だ。
「モンスターの経路は!」
「今は奴隷(どれい)区(く)にいる。そこから直行してゴラーシに行くらしい」
「奴隷(どれい)区(く)のところから襲われる可能性は?」
「それは低いと思う。モンスターの知能は低いし、襲おうとしたら人がたくさんいるところを襲う(おそう)し、いざとなれば天使たちが援軍してくれるから」
それに私たちはほっと胸を撫で(なで)下ろした。
「じゃあ、一旦は待機ということ?」
それにコクリとエカテリーナはうなずいた。
「うん、でも大したことにはならないと思う。大体のモンスターて魔力が500ぐらいだけど、それなら大勢じゃなければ退治できるからね」
「まあ、なんにせよ」
私は言った。
「着替えて(きがえて)くる。この格好じゃあ、戦えないから」
「うん。ぜひ、そうして」
そして、私が着替え終え駐屯地(ちゅうとんち)に行くとみんなが作戦室の中に集合した。隊長と副隊長は通信(つうしん)室の前で本部と連絡を取り合っているらしいがなんとなくそわそわした気持ちでいた。
ふと視線を感じて隣を見つめたらエルザも不安げな表情をしていた。
「不安だね」
「うん」
「なんかさ、こういう時はいっそ敵が来てくれた方がいろいろと活動できるのにさ、逆に今のまままだと宙ぶらりんだね」
エルザは顔を俯かせて頷いた。
「うん」
バン!
その時、ヴィクトルが扉を開けた。
「アイリス、エカテリーナ」
「はい」
私たちは立ち上がった。
「来てくれ。どうやらこの村に進軍しているモンスターが出てきた」
皆に動きはゆっくりだか力強い揺れが走る。
「はい」
私は鋼鉄(こうてつ)を身に纏い(まとい)。ヴィクトルに続いた。
通信(つうしん)室は狭い部屋だった。ざっと七人ぐらいがなんとか入れる中。私たちは一つの機器の前に椅子で座った。
その機器は通信(つうしん)機。街中(まちなか)ではあまり見られない物だが、同じ物のような個体と情報をやり取りできらしい。
ごめん。そう学校で習ったけど、よくわからない。何せ実物を見るのは始めて見た。
実物は銀色の長方形のもので、アンテナ?というものが本体からツノのようにニュッと出ている。
もう一つ。これが重要なのだが、オレンジの通信(つうしん)機と同じような形をしているものがある。これは索敵(さくてき)通信(つうしん)機と言って、なんか、センサーの中にモンスターが現れたらモンスターの個体と魔力を知らせてくれるらしいものだ。
ごめん。やっぱり学校に習ったんで正直に言ってよくわからない。ヴィクトルが言うにはこの索敵(さくてき)通信(つうしん)機がモンスターをとらえたらしいが…。
「じゃあ、オンにするぞ」
そう言って、マルスが索敵(さくてき)機を触った。カチッとした音が聞こえたが、私はどこがどうなっているのかわからず、ただ、神妙(しんみょう)な面持ち(おももち)をしていた。
ブブッ、ブブ。
「ただ、今の、モンスターの、個体は」
「うまく作動してくれたようだな」
「喋った(しゃべった)!」
ヴィクトルの平静(へいせい)な口調と、私の驚いた口調はほぼ同時だった。そして、私は顔を赤くした。
皆が私の方を見る。私は顔を俯かせた(うつむかせた)。
うう、なんか田舎者みたいで恥ずかしいよ〜。
「しっ」
ヴィクトルが口調を沈める。
「今は索敵(さくてき)機の通信(つうしん)が先だ。皆、よく聞いておけよ」
それは、そうなんだけど、まさかこんな長方形のものが喋るなんて。こんな箱に誰が入っているんだろう?
そう言う疑問でいっぱいだったが、任務(にんむ)の邪魔だったので黙っておいた。
「敵の個体Aゴブリン型、300、B同じくゴブリン型300………」
うちらの平均魔力は500ぐらいだ。ただ、人とモンスターでは違う部分がある。この索敵(さくてき)レーダーはモンスターの外観(がいかん)に現れる魔力量を検索(けんさく)しているので、総量はもっと10倍ぐらい上で私たちの魔力検査は50だとしたら。総量は500になる。だからこのモンスターの魔力の総量は3000や5000ぐらいになる。まともに戦ってはモンスターに勝てるわけがない。
だが、満足気味のマルスはうなずいた。
「よしよし、これは雑魚だな」
しかし、それをヴィクトルが嗜める。
「し、まだ通信(つうしん)が終わっていない」
それでもマルスたちが楽観(らっかん)しているのはわけがあって、人間には魔術があり、魔術とは魔力を加工した術でいくつもの技がある。
そう、力任せでは勝てないが、術を使って相手を倒すことは可能なのだ。
例えば、オードソックスでは私とマルスだったら幻術(げんじゅつ)と毒殺魔術。これは相手に幻を見せて、切った相手のかすり傷でもいいから与えると相手は毒を吐いて死ぬ魔術。しかもこの毒は相手の魔力の総量に応じて効き目が発揮するもので体モンスター戦としては十分いけるのだ。
この他にもいろんな討伐隊(とうばつたい)のメンバーが体モンスター用の魔術を使うのでそんなに敵が強いと言うわけではないのだ。
索敵(さくてき)機が話し続ける。
「Cロック型500、Dベリアル型700………」
「なんとか、いけるな」
「…………………………」
そう、胸を撫で(なで)下ろすマルスの言葉に、しかし、私は最初の任務(にんむ)ということもあって、最後まで聞いていた。
「E同じくベリアル型10000」
激震(げきしん)が走った。その言葉に誰もが顔を青くし、やがて怒りの赤に染まった。
「ふざけんじゃねえぞ!」
最初に立ち上がったのはマルスだった。
ツカツカと索敵(さくてき)通信(つうしん)機の前に行って大声で言った。
「本当に10000だとぉ!おい、本気なのか!もう一度行ってみろ!」
「ビー!ガガッ。Aゴブリン型…」
「そこはいいから!」
ガシっ!
そんなマルスにヴィクトルが肩を掴んで(つかんで)静止させた。
「もう一度聞こう。聞き間違い(ちがい)かもしれないしな。さ、座って」
それに渋々(しぶしぶ)とマルスは座った。
「Cロック型魔力500・・・・・・・・・・ベリアル型10000・・・・・・・」
しかし、また聞いてみても結果は変わらなかった。
「10000は大丈夫なんですか?先輩?」
私たちは彼らに聞いたが顔色は芳しく(かんばしく)なかった。
「俺は1500のモンスターを結界(けっかい)ありで倒したことがある」
結界(けっかい)というのは魔力を減少させるものだ。魔力の総量が多ければ大きいほど減少の幅が大きくなり、少なければ対して影響は少ない。
つまり、人間には有利でモンスターには不利になるフィールドのことだ。
「それでも俺は死を覚悟した。それほどまでに1000越えのモンスターは化け物だ」
「そんな」
視界が真っ暗に染まった。
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