第13話悪い人間たち

  第3章 モンスターの襲来




 パチ。

 まだ夜明け前に私は目を覚ます。そして、身支度(みじたく)を整える(ととのえる)。すると上から声が降ってきた。


「アイリス。私たちの巡回(じゅんかい)は早すぎるわよー。何する気?」

 そう言いつつ、エカテリーナは寝ぼけまなこなのか、覇気(はき)のない声だった。

それに私は笑顔で答えた。

「ちょっとランニングするだけだから」

「そ〜。それなら、気をつけて、むにゃむにゃ」


 そう言ってエカテリーナは眠りに落ちた。

 私はホテルの扉を出て一階に降りていく。そして、広場に出ると時計はまだ5時を指していた。

 そして、私はホテルをでて村の周辺の砂漠を走り出した。




「遅いわね」

 私はホテルの時計を見る。もう7時のところに長針(ちょうしん)を合わさっていた。


「こんなに、遅いなんて、やっぱりあの時止めるべきだったかしら?」

 そうは言っても、あの時は心地よい睡魔(すいま)に襲われていたし、多分だけどこう言うことが起きると知っていも寝ていたんだと思うけど………

「仕方(しかた)ない。ヴィクトルに連絡をするか」


 今、私はホテルの応接間にいる。アイリスと7時から巡回(じゅんかい)をするのだが、そのアイリスがいない。待ち合わせ場所は明確には決まっていない。大体ホテルだったり、駐屯地(ちゅうとんち)だったりする。まあ、それがここがどれほど長閑(のどか)な場所かであることを如実(にょじつ)に示して(しめして)いるのだから。


 その時だった。ホテルの扉がバンと開いた。

「はぁはぁ。ごめん、遅れて」

「ちょっと!アイリス!」

 そう言って私が振り向いた瞬間私は息を飲んだ。アイリスは戦闘用のタイツスーツに身を包んでいる、全身汗だらけだった。


「ちょっとアイリス、休みな」

「え?私は大丈夫。それよりも任務(にんむ)を」

「そんなヘトヘトな状態でまともに戦えるわけないでしょう?ちょっと酒場に行って休もう。私の方からヴィクトルに行っておくから」

 アイリスは反論(はんろん)する元気もないのか肩で息をして、そしてうなずいた。




 それから、私たちは酒場で休息してそれから巡回(じゅんかい)の任務(にんむ)をした。巡回の任務(にんむ)は村の周りにモンスターがいないか調べる物だが、しかし、ほとんどセンサーで探知できるので、私らのやっていることは散歩だ。


 時々、酒場に寄ってジュースとかをたまに飲みつつの散歩。そこまでハードな任務(にんむ)じゃない。


 そして、夕方。今日の任務(にんむ)が終わり、駐屯所にいるヴィクトルに報告(ほうこく)をした。ヴィクトルはいつものように平静(へいせい)な表情で聞いていた。


「ご苦労さん。お前ら、疲れただろう?明日の任務(にんむ)は今日と同じ午前7時から5時まで巡回(じゅんかい)任務(にんむ)を行ってもらう。さて、解散だ」

 私たちはお辞儀(おじぎ)をして出て行こうとしたが、しかし、ヴィクトルの声が聞こえた。


「まった。アイリス。君は少し残ってもらおうか。エカテリーナ。君は帰りなさい」

 エカテリーナは心配気な様子でこちらを見たが、すぐ鉄の表情をしながらもヴィクトルに敬礼して帰っていった。


「さて、アイリスそこにかけなさい」

「はい」

 きっと今朝のことだろうな。うう、こってりしぼられるんだろうなぁ

 そう思って、私は身を硬く(かたく)したら、ヴィクトルが立ち上がって、キッチンのほうに行った。


 ここは作戦室で、いろんな作戦を取り仕切る場所、と言うことになっているが、ほとんどは巡回(じゅんかい)につく人と日時をヴィクトルが通達(つうたつ)、またはヴィクトルに報告(ほうこく)する場所で、ほとんどヴィクトルの個人部屋と言ってもいい。

 半径50メートルほどの少し広い部屋に今はヴィクトルの私物はそこかしこに置かれている。


 と言っても。大体任務(にんむ)の記録帳(きろくちょう)ほとんどだが、本来は記録帳は記録室で管理をしなければならないのだが、ヴィクトルの記録つけて適当に棚にしまっておきました感が強い。


 他にも、この部屋ラウンドテーブルに椅子が周辺に置かれていたらしいが、今はテーブルに、それを向かい合ってソファが二つ置かれている。

 そして、極め付けはキッチンだ。


 便宜上、私たちがそう呼ぶものだが、実際に料理はされていない。ただ、加熱器と飲み物を冷やす冷気の魔法がかけられている魔導具、ボックスに何本かの飲み物を収容し、あと茶葉もいくつか収容できる棚があるぐらいだ。


 そして、ヴィクトルは戻ってきた。その手にはオレンジジュースを2つ持っている。

 ヴィクトルはにっこり笑いながらその一つを渡してくる。


「お疲れさん。ま、これでも飲んでくれ」

「あ、ありがとうございます」

私はそれを受け取った。てっきりきつい説教が待っているかと思ったが、そんなことはなかった。

 それでオレンジジュースをゴクリと飲む。オレンジジュースは甘かった。


「さて。本題だが」

「はい」

 いよいよ来たか。


「お前さん、ここ数日かなり訓練をしているようではないか。素振り、魔力の強化、朝のランニングに、隊員を捕まえては模擬戦もやっているらしい」

「それは悪いことなんですか?」

 私は先手を打った。これから否定されるだろうと思ったから、まず訓練の正当性を。


「いや、悪いとは言っていない」

 言おうとしたが、肩を外された。

「しかし、程々(ほどほど)にしておけよ」

「…………………」

 外された後、強烈なボディブローを喰らわされた。


「でも、私はまだ未熟だし…」

「でも、ここは一応前線基地だ。今朝のことがそう頻繁(ひんぱん)にあってはいけない」

「………………………」

 私は岩のように固まった。もう何も聞くつもりはない。


「そんなにマルスに負けたのがショックか?」

「え?」

 私は思わずヴィクトルの顔を見る。ヴィクトルは優しい(やさしい)目をしていた。

「はい」

 それに私はコクリと頷く。ああ〜あ、何にも聞くつもりはないと思っていたのに、すぐ路線を変更してしまった。


「私、許せないんです」

 なんとなく話してもいいかな、と思った、この人には。

「悪がそのまま野放し(のばなし)になっていて、その悪に勝てないなんて」

「悪い奴ら(やつら)が野放し(のばなし)になることなんていつものことさ。そのすべてを根絶(こんぜつ)することはできない」

 そう言ってヴィクトルはクイッとオレンジジュースを飲んだ。


「でも!」

 私は憤懣(ふんまん)やるかたない風に言った。

「私自身許せないんですよ。そんな悪い奴に負けるなんて。実力で劣っているなんて!本当に」


「マルスのことは諦めろ」

「でも!」

「それよりも重要なものがあるだろう」

「重要?」

 ヴィクトルはうなずいた。


「そうだ。俺たちには町の警護(けいご)という重要な任務(にんむ)があるだろ?」

「それは」

 私は両の手をきゅっと握って顔を俯く(うつむく)。

「わかっていますけど、でも…」

「頭ではわかっていても心の方は納得できないということか」

 ヴィクトルはやれやれという風に首を横に振った。そして一口オレンジジュースを飲む。


「あの…」

「ん?」

「副隊長はなんで討伐隊(とうばつたい)に入ったんですか?」

 ヴィクトルはソファーに体をもたせかけて天を見つめる。そこにはスイッチでライトをつける魔工具があった。


「そうだな。悪いモンスターを退治するため、かな?」

「ならば!」

「悪い人間も退治したいのか?」

 私はコクリと首を縦に降った。


「まあ、それはよしておけ。いろいろ人間界では事情があるんだ。お前さんが義憤(ぎふん)に駆られる状態もわかるが、これはやめておけ」

 私は肩を落とした。ヴィクトルならわかってくれると思ったのに。


「ま、明日も仕事があるんだ。今日のところはゆっくり休んで行け」

「はい」

 それから、とぼとぼとした足取りで私はホテルに帰っていった。

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