第11話決闘申し込み

 それからの二週間、私は討伐隊(とうばつたい)の任務(にんむ)について習った。

 習ったと言っても、ただ、村を巡回(じゅんかい)することだけであったが、それを完全に覚え、村の地形を完全に理解できた時に私はある行動を移した。




「はぁ!?俺に決闘を?」

「そうです」

 討伐隊(とうばつたい)支部の名、2階の休憩(きゅうけい)室の中、私はマルスに決闘を申し込んだ。


 マルスは怪訝(けげん)な表情をする。

「どう言うことだ?」

「どう言うこともありません決闘です。私が勝ったらマーサさんと縁を切ってください」

 マルスは鼻で笑った。


「もし、君が負けたら?」

「私の胸を揉んで(もんで)もいいですよ」

 マルスが口笛を吹く。

「ただし、一回だけですから」


「いいさ。見たところ。Dカップの胸を揉めるなんて最高だ」

 交渉成立だ。やっぱり、マルスはすけべでだからうまくいくと思っていたが、やはりその通りにうまく行った。

「あの隊長」


 隣にいたブロスが話しかける。確かこの人はエルザさんのフィアンセだ。

 彼は痩せていて、頬肉がごっそり消えていたが、冷たい感じを受けるのではなく、もっとこう暖かさがある瞳をしていた。


「いくら決闘だからと言っても、討伐隊(とうばつたい)は一応帝国騎士団に属します。その騎士が公然と女の子の胸を揉むのは………」

 それにマルスは拗ねる(すねる)ようにいった。


「いいんだよ!本人がいいと言っているんだから、それでいいんだよ!それとも何か?お前はマーサと俺の縁を切るように見合う代価が他にアイリスにあるとでも言うのか?」


「妻子がいながら他の女の子と年ごろの関係になる隊長が悪いんじゃないですか?」

 ブロスはしっかりとマルスを見つめて言った。こいつはなかなかのものだ。エルザが好きになる気持ちも少しだけわかっちゃうな。


「お前、誰にものを言っているのかわかっているのか?俺はフォルス家の跡取りだぞ?貴族が平民と一緒に戦うことだけでありがたいと言うのにそれをお前、そんな貴族様にケチをつける気か?」


 それで、なんとなくマルスの環境が分かった気がする。

 こいつ、貴族のボンボンか。それで通りで子供っぽいわけだ。

 それにブロスは口籠る(こもる)。


「なら、隊長。これはどうですか?隊長は新入りに稽古(けいこ)をつけてあげると言うことで。隊長の方が実績が上というわけですから、そのハンディとしてもし、隊長が負けたらマーサとの縁を切るということで」


 それに明らかにむすっとした

態度(たいど)をマルスは取った。

「なんで、俺がそんなハンディを取らなきゃいかんのんだ!」

 しかし、ブロスは冷静な様子だった。


「いいんですか」

「何?」

「フォルス家の跡取りともあろうものが、いくら相手が了承(りょうしょう)してからと言って、女の子の胸を揉んで(もんで)もいいんですか?」

「ぬっ」


「噂(うわさ)というのは本当に恐ろしいもので、火がついたら最後、あることないこと言われますよ。その種火(たねび)を自ら蒔いて(まいて)いいんですか?」

「むむっ」


 本当にこいつダメなやつだよな。

 マルスは唸って(うなって)いたが、やがて横柄(おうへい)な口調で頷いた(うなずいた)。


「まあ、いいだろう。貴族様だからな。平民とフィフティ、フィフティとの考えが間違っていた。やっぱり、ここは俺が譲って(ゆずって)やるか」


 うわー本人かっこいいつもりで言っていると思うけど、すごくかっこ悪いよ。

 私はブロスさんに耳打ちをした。


「すみません。私のために」

 ブロスさんは微笑んだ。


「いいですよ。女の子の胸を公然と揉むというのは間違っていますから。それよりも、こういうことを考えているのなら、誰でもいいのでまずもって相談してください」

「すみません」


 私はブロスさんに平謝りをした。

 ともかく、私とマルスの決闘は決まった。私はあんな卑怯(ひきょう)な奴に負けない。


 私は決意を固めていた。 その翌日。私とエルザは巡回(じゅんかい)の任務(にんむ)を終え、他の人に巡回(じゅんかい)の任務(にんむ)を終え、宿屋の部屋に入ると、そこにはエカテリーナが待っていた。


「聞いたわよ。あのマルスと決闘するんだって」

 そう肘(ひじ)で突きながら、エカテリーナは猫の目で言ってきた。


「はい。あんな卑怯(ひきょう)な奴には負けません」

 この部屋は仮眠室のように2段ベッドじゃなくて、シングルが4つある。なんでも、女性専用の部屋らしい。そういう割にベッドしかない殺風景(さっぷうけい)な部屋だけど。

 しかし、突然エカテリーナは真剣な表情をした。


「でも、気をつけてね。マルス、強いから」

「そうなんですか!?」

 エルザが真剣な表情で言う。

「ああ、見えて貴族だからね。最新の教育を受けているらしいよ。幻術(げんじゅつ)の腕も強いと聞いているし、注意しといた方がいいよ」


「そう、ですか」

 あんな卑怯(ひきょう)な奴が強いと言われてショックだったけど、でも、私が勝つよね?私は正しいことをしているんだから、イシス様も私のことを祝福(しゅくふく)してくれるはずだよ。

 そうもの思いに耽って(ふけって)いるとエカテリーナが私の方をガッチリ組んできた。


「まあ、でも、私は感動したよ!あんな悪漢(あっかん)に立ち向かうなんて、その心意気だけでもよし!ってね」

「はい。私もアイリスのことかっこいいと思います。頑張ってください」


「はは、ありがとう。そういえば、ブロスさんにはお世話になったよ。よろしく言っておいて」

 それにエルザは目をぱちくりさせた。

「ブロス何をしましたか?」

「本当なら、私が負けたら、ペナルティを喰らうつもりだったけど、ブロスさんの計らい(はからい)によって、それが無くなったの」


 それにエルザはうんうんと言った。

「彼、自分がやったことをペラペラ話しませんから。会うと私の方に話を合わせてくれます」

 今度はエカテリーナがエルザの肩を組んだ。


「うーん、いい彼で、よかったね」

「はい。いい人に巡り(めぐり)会えました」

 エルザがまっすぐこちらを見つめる。

「決闘頑張ってくださいね」

 私は頷く。

「もちろん」


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