第9話モンスター討伐隊

 第2章 モンスター討伐隊(とうばつたい)




 ガタゴト

「到着です」


 私は笑顔で答える。

「どうも、ありがとう」


 そう言って私は馬車から降りた。うう、お尻が痛いよ〜。

 お尻に痛さにもめげずに赴任(ふにん)して来た村を見る。そして、自分の服装を見る。


 支給された服は肩まで掛かっている紺色の全身タイツに黒のスカートと白の肩掛け。うん、こう見るとさっぱりしていていいね。一応軍人だけど、こう言うカッコ可愛い(かわいい)服装を着るとテンション上がるね。

 私は顔を上げる。


 ミンガ村か。砂に覆われた村だね。

 蜃気楼までが見える炎天下の村。オアシスもあるが基本的に当たりが砂に覆われた砂漠の村だった。とは言っても、そこまでは酷くはない。


 村の中は土が見えるし、暑いといえば暑いけど酷暑というほどではないね。

 そう言うのにはわけがあって、私は温度魔法で設定より高い温度をシャットダウンしているのだ。だから、私の体感温度的にはそんなに暑くない。しかし、やはり暑そうな村だった。


 ま、のどかそうでぱっと見いい村に見えるけど。


 私はツカツカと村に入って行った。そこで畑で農作業している、中年のおじさんの村人に尋ねた。


「すみません。つかぬことを尋ねますが」

 おじさんは怪訝(けげん)な表情をする。

「ここのモンスター討伐隊(とうばつたい)の駐屯場(ちゅうとんじょう)はどちらですか?」

 おじさんは疑わし(うたがわし)そうな表情でこちらを見てくる。


「なんでそんなことを聞いてくる?」

「あ、すみません、申し遅れました。アイリスと言います。この度(このたび)はこちらの村のモンスター討伐隊(とうばつたい)に配属(はいぞく)されました。証明書(しょうめいしょ)はこちらになります」


 私はモンスター討伐隊(とうばつたい)の証明書(しょうめいしょ)を出した。それに彼もホー、という顔をした。

「もしかして新入りさん?」

「はい!」


「まあ。男じゃなくてよかった。それなら来なさいな。案内するから」

「あ、はい!」

 何か引っかかるものを感じたが、後についていくことにした。

 歩きながら彼は言う。


「俺は50年間この村に住んでいるけど」

「はい」

「モンスターに襲われたのは数度。本当にこの村にはモンスターはこない」


「はぁ」

「頻度(ひんど)は少ないが、その時には討伐隊(とうばつたい)のみんなにはお世話になった。しかし………」

「しかし?」

「ほら、着いたぞ」


 指差したその建物は白の石造りの正方形の建物だった。

「あ!窓発見!」

 四方からガラス窓が覗かせていた。やっぱり帝国のものだけあってガラス窓が当然のように使われている!

 その高級さに心の中で感涙(かんるい)の涙を流していたら、後ろから声がかけられた。


「じゃあな。俺は仕事があるんで」

「はい。また」

 なんかあんまり素っ気(そっけ)なかったな。討伐隊(とうばつたい)はこの村でよく思われていないんだろうか?


 ともあれ、今は中に入るか。

 私は扉を開いて中に入った。


「お邪魔しまーす」

 恐る恐る入っていく。


 中を見ると一番印象的だったのは大きなフロアの階段。どこぞの王宮(おうきゅう)のような大きな階段がフロアにあり、その両脇に二つの通路があった。

「でか」

 階段をまじまじ見てしまう。本当に大きいな。


 ツカツカ。

 その時足音が聞こえた。誰か来たのかな?


 通路の向かって右側から来たのは、現れたのは20ぐらいの若い女性だった黒い透き通ったロングヘアと童顔の顔つきをしている可愛らしい女性だった。

「あ」

 女性がアイリスに気づく。


「あ、すみません。今日から配属(はいぞく)になりました。アイリスです」

 私はぺこりお辞儀(おじぎ)をした。彼女もお辞儀(おじぎ)をする。


「私の名前はエルザ・ミラーソン。よろしく」

「あ、はい、よろしくお願いします」


「あなたが例の新人さん?」

「知っていましたか?」

 エルザは微笑む(ほほえむ)。


「幻術(げんじゅつ)はモンスター戦にとって一番頼りになる魔術だからね。その幻術(げんじゅつ)が得意なんでしょ?あなた?」

「あ、はい。幻術(げんじゅつ)と毒殺が得意です」

 それに刻々とエルザはうなずいた。


「上々よ。私はマジックアーチャーで。幻術(げんじゅつ)はからっしきり。だから、モンスターに来た時には非難(ひなん)誘導(ゆうどう)の警護(けいご)をしているわ」

「マジックアーチャーというのはあれですね。魔力で一本の矢に仕立てて相手を撃ち抜く」

 それにコクリとエルザはうなずいた。


「私は収斂(しゅうれん)が得意でね。一つの魔力を貯めておく、っていうやつ。幼い頃から女性を襲う(おそう)モンスターが嫌いで、なんとか戦えるようになりたかったので、マジックアーチャーになったんだけどね。モンスター戦ではマジックアーチャーそんなに使う機会はないらしくて。というより配属(はいぞく)されてから気付いたんだけど。やっぱり、モンスターと主に戦っているのは天使で人間たちは補佐(ほさ)や、住民の避難誘導(ひなんゆうどう)が主な活動なんだよ。先輩の話ではこの村にモンスターが何度が来た時に、エマさんがなんとかしてくれたし」


 確かエマさんというのは、ここら辺の天使長だったな。私たちモンスター討伐隊(とうばつたい)は彼女ら天使たちの指示に従わないといけないことになっているんだ。基本的に。


「え?でも。さっき、おじさんが私は50年生きているがモンスターが来たことは数度だって」

 それにエルザは微笑んだ。


「こことモンスターの森の間に大きな砂漠があるからね。そこに大きなセンサーがあって、モンスターが近づいてきたら知らせてくれるの。それを感知したらエマさんが高速に行ってモンスターを退治するわけよ。住民の方達にも知らせているけど、センサーという単語がなかなか理解できないらしく、しかも眼前で起きて(おきて)いるわけではないから、ここは平和だと思っているの」


「な、なるほど」

 そう、うなずいたものの、私自身もセンサーはわかったような、わからないようなだったので内心冷や汗(ひやあせ)をかいていた。


 センサーってなんだっけな?確か相手を探知する機械と言っていたけど、それで遠くのモンスターを探知するのが今一歩わからない。うう、バレないようにしなきゃ。


「じゃあ、私は新入りが無事到着したって通信(つうしん)室に行って本部に知らせてくる。あなた、馬車できたんでしょう?奥に仮眠室があるから使っていいよ。後、お腹すいたのなら酒場とかで何か食べてもいいし。でもお酒は厳禁。今日の夜はあなたの歓迎(かんげい)会やるから」


「了解です。あの………」

「ん?」

 エルザが不思議(ふしぎ)そうな顔をして振り向く。


「なんか他にやることはないんですか?なんか、こう、腕を見せるとか。これじゃあ、まるで……………スポーツクラブに入った感じなんですが………」

 そういうとエルザはくすくすわらった。


「そうだよねー。まんまスポーツクラブだよねー?これが本当に帝国が一番重要な案件としているモンスターの討伐かよ!って話だよねー?」

「あ、はい」


「でも、実際問題としてほとんどのモンスターは天使たちがやってくれて、私たちは、例えばセンサーが故障した際とか、センサーをすり抜ける(ぬける)魔物用の警護(けいご)が任務(にんむ)なの。まあでも、副団長の話では過去一度もそんな事例はなかったって」


「はは」

「だから、ゆっくりして行っていいよ。最初は慣れないかもしれないけど」

「善処(ぜんしょ)します」

「はは。そう、無理せずに、ね?」

 そう言ってエルザさんは二階に上がって行った。


「さて、どうするかな?」

 とりあえず、お腹はそんなにすいていない、それよりも。

「眠い」

 私は素直に仮眠室に向かおうとしたが、通路は階段の両脇にあった。


「とりあえずエルザさんがきたところを行こう」

 私は薄暗い右の通路を歩いて、扉を発見した、そのネームプレートに

「図書室。違うな」

 2、3の扉を発見したがどれも仮眠室ではなく、結局一番突き当たりの扉までたどり着いた。そこには。


「仮眠室。これだ」

 私は入ると室内は窓がなく、暗かった。ライトの魔法で灯りを照らす。そこには2段ベッドが二つあった。


「もう、すぐ寝たい」

 手ごろな、左側の下のベッドに入っていく。

「おやすみなさい」

 意識するまもなく睡魔(すいま)の世界へ飛び込んでいた。




 気がつくとそこは闇の中だった。

「お母さん?」

 パッと、ライトの魔法を照らす。だが、そこは自分の部屋じゃなかった。


「あれ、ここどこ?」

 2段ベッドが二つあった。記憶を辿ろう(たどろう)としたら次第に思い出してきた。

「あ、ああ。ここは討伐隊(とうばつたい)の。今はいつぐらいかな?」

のそりとベッドから抜け出す。

 そして、仮眠室を出てかなり暗い通路を歩く。


「暗いなー」

 そのまま、歩いていると図書室から一人の男が出てきて鉢合わせ(はちあわせ)た。


「お?」

「あ」


 その男は筋肉質な体型をしており、髪はもみあげにして上に伸ばしていた。顔もかなり厳つそうな男だった。なんか、ぱっと見ゴロツキに見える。服装もタンクトップとベージュのズボンを着ているから尚更(なおさら)だ。


 その彼が第一声を発した。私はどんな厳つい言葉が出てくるんだろうと思ったが、予想通り声はやはり厳つかった(いかつかった)。


「おめえが新入りか?」

「はい。アイリスと言います。よろしくお願いします」

 頭を下げる。ふと頭に優しい(やさしい)視線を感じた。


「俺はここの副団長のヴィクトルというものだ。よろしく」

 そう言って、ヴィクトルが握手(あくしゅ)をしてきた。私もそれに応じる。

 この人って、見た目が厳つそうだけど、何か優しさを感じる。


「あの」

「ん?」

 ヴィクトルの目は優しかった。温厚(おんこう)と言ってもいいくらいだ。


「今何時ですか?」

「16時かな?おめえ、お腹は空いていないか?」

 そう言われた瞬間お腹から食べ物よこせ、というサインが送られてきた。


「はは、空いてますね」

「なら、酒場でクラッカーを食べるといい。20時にはそこの酒場でおめえの歓迎(かんげい)会があるから、そこで待機していてくれ」


「でも、4時間か。どうやって暇つぶそうか」

 そういうと、不意にヴィクトルが消え、そして、また現れ一冊の本を手渡した。

「ほれ」

 見ると、それはありきたりな恋愛小説のように見えた。


「これでも読んで暇(ひま)つぶせ」

「あ、でもいいんですか?勝手に持ち出して」

 その後彼から放たれた言葉は私の予想外のものだった。


「いけねえな」

「え?」

 この人、なんて言った?


「本来は無断持ち出しは厳禁だが、俺名義で借りてやった。まあ、細えことは気にすんな」

「は、はぁ………」

 やっちゃあいけないことはやってはいけないんじゃあ………?


私は返そうかとも思ったが、この人は副団長で私の上司にあたる。それに私は新入りだ。ここは素直に受け取っておいたほうがいいよね?

 だが、私はスッとその本を彼に突き出した。

 彼の目が細まる。


「俺の言うことが聞けねえってのか?」

「い、いえ!でも、規則は規則ですし」

 いくら時間が立っただろう。私は冷や汗(ひやあせ)をかきながら本をヴィクトルに突き出したポーズのままだった。


 突然ヴィクトルが吹き出す。

 私は頭がはてなマークになった。

 これはいいことなの?それとも悪いことなの?


「はっはっは!たまげたやつだなぁ!上官の言うことも聞けないなんて」

「す、すみません」

 ヴィクトルは悪戯っぽく(いたずらっぽく)ウィンクする。


「いいってことよ。別に今が作戦中じゃないしな。じゃ、これは返しておくわ」

 ヴィクトルは私の本を受け取ると図書室に返しに行った。そして、また、ひょっこり顔を見せる。


「でも、大丈夫か?4時間も待つなんて。暇じゃないか?」

「あの、訓練場はありますか?そこで素振りでもしています」


「ん。訓練場は村の南西方面にある。突き当たりだからわかりやすいと思うけど、地図はいるか?」

「い、いえ、大丈夫です。ありがとうございました」

 深々とお辞儀(おじぎ)をする。それに彼は。


「おう!」

 人懐っこい(ひとなつっこい)笑みを浮かべてさって行った。

 まあ、でも、あの人なんか感じが良かったな。

 ぐー。


 出し抜けに腹の虫が聞こえた。

 早く酒場に行こう。

 そう思ってトコトコと歩いた。

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