戦争の混乱で、家族と離れ離れになってしまったウクライナの難民・レーシ少年と、一人ぼっちのレーシに寄り添ってくれた日本人女性・フユコが、車で共に旅をしながら、行く先々に根付いた文化や信仰、人々の思いに触れていく、ヒューマンドラマ中編です。
二人の旅のゴールは、フィンランド。そこにいるというレーシの父親を捜す旅路は、晴れ渡った青空のように穏やかで、戦火が生んだ家族との別離の悲しみが、少しずつ癒されていくように感じました。
物語じゅうに散りばめられた謎たちと、豊かな知識の数々も必見です。異国の地を渡り歩いた経験を、丁寧な下調べに基づいて編み込まれた文章は、非常に読み応えがあるものでした。私が特に心惹かれたのは、食文化に関するエピソードで、活気あふれるシーンに見入りました。車中泊の旅路なので、フユコの愛車に食料を積むくだりにも、なんだか秘密基地に招かれたような、楽しいワクワク感がありました。
たまにはゆっくりと空を見上げて、今の時間を大切にしたいと振り返らせてくれる、とても優しい物語でした。ぜひ多くの方にお読みいただきたい、おすすめの一作です。