第15話 親娘。感動の対面。


 壁から断末魔の悲鳴が響き渡り、パーティ会場の不毛な緊張がひび割れた。


 老兵以外の列席者は、何事か、と悲鳴がした辺りを見た。


 いきなり壁が左右に開き武装した一団が現れる。


 一団の先頭に立つ太っちょを見て、悪役令嬢が叫んだ。


「ぱ、パパ!」


 悪役令嬢のパパ、悪役公爵は、娘の姿を認めると。


「娘よ! 助けに来たぞ! 怖かっただろう!」

「ぱ、パパァァァァ!」


 悪役令嬢は周囲の目も忘れ悪役公爵へ駆けよって抱きついた。


 危機に陥っていた愛娘を自らの危険も顧みず扶けに来た父親。

 よほど安心したのか、抱きついたまま泣きじゃくる娘。


 感動的な光景であった。


 父親の手に生首がなければ文句なく感動的であっただろう。


『なんでこんなことに!?』という表情のそれは、王の首だった。


「もう大丈夫だぞ。ほら御覧、王の首はとったからね。

 お前に王国をプレゼントしてあげられるぞ」


 悪役公爵の背後の兵達が掲げる槍先には、王妃、第二王子、護衛達の首が飾られている。


「凄いですわ! ほんとうにやったのですわね!」


 そんな感動的な光景が繰り広げられる間にも、悪役公爵の背後の兵は増え続ける。


 更に、別の入り口からも手に手に血槍血刀をさげた兵らが入ってくる。会場の外に配置されていた少数の兵や、不運にも反乱軍に遭遇してしまった召使いや職員達が血祭りにされたのだろう。


 たちまちのうちに、会場の出入り口は全て、悪役公爵の手の者に固められてしまった。


 悪役令嬢と並んで立った悪役公爵は、王の首を高々と掲げて叫んだ。


「力なき王は死んだ! 我が公爵家に従う者はその場にひざまずくのだ!

 立っている者は敵とみなす! 従う者の地位は保障する!」


 警備の平兵士の何人かが、武器を捨てその場に跪いた。

 彼らにとっては、上がどうなろうと生活が守れればいいのだ。


 会場のやんごとなき人々も次々と膝をつく。


 彼らは丸腰。

 そして反乱者は完全武装。

 警備の兵が真っ先に下ってしまった以上、対抗手段はない。


 そういう自己弁護がなりたつ状況が、抵抗の意欲を削ぐ。


 無力な権威は、力ある者に屈するしかない。

 まさしく力は正義であった。


 ひざまづいていない者は、王太子とヒロイン、その側近。

 それから十数人の貴族や学園生だけとなった。

 包囲する反乱者に比べれば、とるにたらない人数だ。


 悪役公爵は、ニヤリと笑い、勝ち誇る。


「まだ立っている者がいるか。勇敢なことだ。

 いいだろう。役にも立たない名誉に殉じて死ぬがいい!」




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